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漫画家デビュー約20年 マンガ大賞作者を取材 『これ描いて死ね』は自分を奮い立たせる言葉

2023年3月29日 22:45
漫画家デビュー約20年 マンガ大賞作者を取材 『これ描いて死ね』は自分を奮い立たせる言葉
『これ描いて死ね』作者・とよ田みのるさん
書店員を中心とした各界のマンガ好きが“今一番薦めたいマンガ”を選ぶ『マンガ大賞2023』。そこで大賞に輝いた『これ描いて死ね』(小学館)のとよ田みのるさん(51)にインタビュー。マンガ大賞を獲得した喜びや、制作の裏側についてお話を聞きました。

作品は東京の離島を舞台に、漫画を描くことに目覚めた高校1年生・安海 相(ヤスミ アイ)たちが、漫画創作を通して、作品を生み出す苦しみや喜びを知り、成長していく物語です。

この作品を選考した委員からは、「大好きなことに向かって一直線に頑張れる主人公たちの若さや真っ直ぐさがとにかく眩しくて愛おしい」、「マンガへの愛に溢れていて、その愛はストーリーのみならずコマ割りやら台詞やら、マンガならでは! という表現で描かれたページの隅々から伝わってくる」などと評価され、大賞に輝きました。

■漫画家デビューから約20年 大賞獲得で「やっと報われた」

とよ田さんは、1971年伊豆大島生まれ。漫画家としてデビューする以前から、漫画が好きで、藤子不二雄Aさんや藤子・F・不二雄さんをはじめ多くの作品を読んでいたといいます。そして、25歳の時に「自分が読んでいた面白い漫画を自分でも描いてみたい」と漫画家の道へ進み、2002年に月刊アフタヌーン掲載の『ラブロマ』で漫画家デビューしました。これまで『FLIP-FLAP』、『友達100人できるかな』などの多くの作品を生み出しています。


――『これ描いて死ね』が大賞に輝いた気持ちを聞かせてください。

いまだにちょっと実感がなくて。「なんで僕が」というふわふわした気持ちですね。とてもうれしいです。

――漫画家デビューから約20年、振り返っていかがですか?

いろんなことがありましたね。これの連載を描く前とか、本当は漫画家が終わっちゃうのかなとかと思っていた。まあ大変でしたよ。だから今回『マンガ大賞』って聞いて「やっと報われた」みたいな、そんなのがあるかもしれないですね。

■『これ描いて死ね』は「漫画を描くときに言い聞かせていること」

今作の前には、堅物の女の子と鬼の男の子のラブコメディーを描いた漫画『金剛寺さんは面倒臭い』を連載していた、とよ田さん。『このマンガがすごい!2019』の(宝島社)オトコ編第2位にランクインしましたが、この作品では「自身の“好き”を出しすぎた」と語る、とよ田さん。その経験を踏まえて、今回はたくさんの人にわかりやすい題材で漫画を描くことを考えたと言います。

――本作は漫画制作に目覚める女子高生たちの物語ですが、このテーマで描かれようと思ったきっかけはなんですか?

これの前の連載が『金剛寺さんは面倒臭い』っていうのを描いたんですけれども、それは我を出し過ぎたかなと思ったから、今度はもっとすごくたくさんの人にわかるような優しい漫画を描きたいなと思って、その漫画の王道である部活ものや高校生ぐらいの年代を主題に置いた青春物とか、わかりやすい話を描きたいな、わかりやすいエンターテインメントを書きたいなっていう気持ちから入りました。

――青春物の作品、ポップなタッチに反して『これ描いて死ね』というタイトルが、とても印象的だと思ったのですが、このタイトルをつけた理由を教えてください。

いつも「自分、頑張れ!」っていう感じでいろんな言葉を書くんですけれども、『これ描いて死ね』っていう言葉もよく書いていて、これは僕が漫画を描く時に自分に言い聞かせていることです。「この1本描いて、もう死んでも悔いのないようなものを毎回描こう」、「今日死んだとしてもこの間、描き上げた漫画が遺作になっても恥ずかしくないようなものを描こう」って思いながら描いています。そういう気持ちがこのタイトルです。

――とよ田さんがこの作品の中でこだわった部分などはありますか?

前の連載の時は「ここを見ろ!」っていう感じで描いていたんだけど、今回はむしろ広くたくさんの人に読んでもらいたいと思っているから、むしろ自分を出さないようにこだわらないように読みやすいようにということを、一番こだわっていますね。例えばセリフの少なさであったりとか、コマの大きさであったりとか、そういう部分に気を遣って、見過ごされてしまいそうな部分にこそ頑張っているつもりです。

■子供のイラストを模写したコマ 娘からは「パクった」

実はこの作品で、主人公が初めて描いた漫画のつたなさを表現するために、小学3年生の娘さんのイラストを取り入れたといいます。

――作品の中には、お子さんが描いたイラストもあるとお聞きしましたが。

(安海が初めて描いた漫画に登場する)モグラの絵は、娘が描いた絵をもとに僕が模写したんですよ。だからよく「モグラをパクった」って言っていますよ。「ごめんな」って言っています(笑)。

――お父さんが大賞をとった喜びよりも作品をとられてしまったことのほうが気になっているんでしょうか?

いっぱしの作家じゃないですか。今度、「君の作品を本(コピー本)にして、コミティアっていう同人誌即売会で一緒に売ろうよ」って言って、その時に巻末に「僕がパクりました」って描くからそれで許してくださいと言っています(笑)

――本作を通して、読者の皆さんにどういったことを伝えていきたいですか?

伝えるとかっていうのは、本当は僕はおこがましい話だなと思っていて、ただ読んで笑ったり泣いたりして、なにかポジティブなものを受け取ってくれたら、僕はそれが一番うれしいです。そうするために漫画を描いています。