【日本には2人だけ】インティマシーコーディネーター 需要に応えるために始めた人材育成
その2人のうちの1人で、2020年に日本で初めてインティマシーコーディネーターとして活動を始めた浅田智穂さんは、人材不足を解決すべく、今年3月からインティマシーコーディネーターの育成を行っています。
■インティマシーコーディネーターの育成に取り組むワケ
映像制作において、俳優がヌードになるシーンや、肌の露出が多いシーン、それから疑似性行為をするシーン、身体的接触があるシーン、そういった性的なシーンは“インティマシーシーン”と呼ばれます。そのようなインティマシーシーンの撮影時に、俳優の身体的・精神的安心安全を守りつつ、監督が思い描くビジョンを最大限実現させるためにサポートするのが、インティマシーコーディネーターです。
近年、映画やドラマの現場で導入が進むインティマシーコーディネーター。一方で、性被害が描かれたある作品において、主演俳優がインティマシーコーディネーターの参加を望んだにもかかわらず、監督が受け入れなかったとされ、SNSなどで問題視する声があがっています。
――スケジュールが合わず、インティマシーコーディネーターを入れることができないケースもあるんじゃないかというような声も聞かれますが、実際、依頼が来たものの、スケジュールが調整できないケースもあるのでしょうか?
浅田さん:私は、スケジュールが合わなくてお断りした作品は、実は1本しかないんです。その1本も、クランクインの直前にご連絡いただいたので、もうちょっと準備が間に合いませんということで、ご理解いただきました。
――制作側は、どのぐらいの準備期間を持って依頼することが一般的なんでしょうか。
浅田さん:クランクインの1か月前には絶対にご依頼いただきたいです。台本の準備稿が絶対あるはずなので、その準備稿でインティマシーシーンがあるとわかれば、あるって段階でご依頼いただきたいです。
――インティマシーコーディネーターがいなくても、女性のプロデューサーやスタッフが、女性の俳優さんに寄り添ってケアしてあげればいいのではないかというような声も聞かれますが。
浅田さん:寄り添うことや物理的なケアをすることはできると思うんですけれども、やはり“何をもって同意なのか”とか、それからその相手の気持ちをしっかりくんで、それをどのように監督に伝えるかとか、それはやはりきちんと勉強した人でないと私は難しいと思っています。あとはどうしてもプロデューサーとか、企画に関わっている方は、自分たちが理想とする、自分たちが作りたいものに向かって、意見をしてしまいそうな気がするんですね。そこは、私はすごく危ういことだと思っています。
■これまで約50本の作品に参加 どのように両立しているのか?
浅田さんは、2020年にインティマシーコーディネーターとしての活動をはじめてから、これまで約50本の作品に携わってきました。徐々に需要が高まり、いまでは同時に複数の作品を並行して担当しているといいます。
――なぜ新たなインティマシーコーディネーターの育成に取り組もうと思われたんですか?
浅田さん:インティマシーシーンの撮影の立ち会いだけではなくて、監督からのヒアリング、それから俳優との面談、衣装合わせに立ち会うこととかもあります。それを同時に何本もの作品をやるっていうのはとても難しいんですけれども、何とかインティマシーコーディネーターが参加できるように、助監督の方だったり、プロデューサーの方だったりが本当に協力してスケジュールを合わせていただいているおかげで、同時に何本も関われるっていう状況です。でも、これからもっと需要が増えることを考えると、やはり今の人数では足りないなと思って育成を考えました。
■人材不足を解決すべく、現在2人を育成中
世界には複数のインティマシーコーディネーター団体があり、浅田さんはアメリカのIPA(Intimacy Professionals Association)という団体に所属しています。英語でトレーニングを受け、団体から認定されたことで、インティマシーコーディネーターの資格を取得しました。浅田さんは現在、IPAとライセンス契約を結び、2人に対し、日本語でトレーニングを行っています。
浅田さん:やはりアメリカと日本ではやり方が違うので、日本のやり方というのを教えています。インティマシーコーディネーターになりたい方ってたくさんいらっしゃるんです。英語でしか学べないっていうところが大きなハードルでした。
――教えているのはどのような内容ですか?
浅田さん:アメリカでも日本でも同じなんですけど、最初の座学は全てオンラインです。同意とは何か、セクシュアリティー、ジェンダー、メンタルヘルス、トラウマ、そういったことをまず勉強して、それから実際の撮影とはどのように行っていて、インティマシーコーディネーターがどのように介入して、どのように台本を読んで、監督とどのように話すか、俳優とどのように話すか、そういったことも学びつつ、それが全部終わると、安全なインティマシーシーンの撮影の仕方をワークショップでやります。
■今後の育成は「需要に合わせて増やしていきたい」
――大体どのぐらいの期間をかけて育成されるご予定なんですか?
浅田さん:私が資格を取ったIPAでは、3,4か月かけてやるんですけれども、私も今同じように、3,4か月のペースでやっていて、8月の前半には資格のテストがあると思います。
――実際に育成を受けられている方は、どういったバックグラウンドの方々ですか?
浅田さん:今回は、男性1人、女性1人を教えているんですけれども、映像業界の経験がある方と、昔、舞台で俳優をやっていた方です。
――今回は2人とのことですが、その先もたくさん育成していこうというお考えですか?
浅田さん:需要に合わせて増やしていきたいというのと、本当に今回初めて私が教えて、彼らが本当に自分で仕事ができるようになるのがどれぐらいかかるのかとかがちょっとまだ見えないので、タイミングでまた増やしていきたいと思ってはいます。今回2人ということで、いろんな方から“なんで2人しか教えないの?もっと必要じゃん”と言われるんですけど、たくさんの作品を抱えながらも、助監督であったり、プロデューサーであったりが何とかスケジュールを調整してくださって、なんとか今やれているんですね。
もっといたらいいのは事実なんですが、これが一気に10人増えた場合、多分全員分の仕事はないんです。私は今教えるという立場。インティマシーコーディネーターを増やすという立場にあって、資格を取った人たちが、安定した仕事がない、食べていけないということは避けたいんです。なのでしっかり需要を見て徐々に増やしていけたらと思っています。