日本絵本賞大賞は『ゆうやけにとけていく』 作者「励まし慰めてくれるような絵本を作りたい」
日本絵本賞は全国学校図書館協議会で選定された新刊から作家、画家、絵本研究者、美術評論家などにより選ばれた「ほんとうに子どもたちに読んでほしい優れた絵本」に贈られる賞。大賞に選ばれた『ゆうやけにとけていく』は、夕焼けの瞬間のさまざまな場所・場面が描かれ、そこに生きる人々の感情が描かれています。
作者である2人組絵本作家であるザ・キャビンカンパニーの阿部健太朗さんは、授賞式のスピーチで手紙を開き、「原案を考え始めたのは全国的に新型コロナ感染症が広まり始めた2020年の初頭。人間たちがおろおろ動揺している中、外の世界は新芽がうるうると立ち上がる美しい春でした」と当時を振り返りました。
描いたきっかけについては「心をどこに持っていけばいいのかわからない、そんな時期に幼なじみの友人が脳の病気にかかりました。コロナ禍で病室にはなかなか入れず、パソコンの画面越しに声をかける日々。最後まで諦めず懸命に頑張ったのですが、友人は亡くなってしまいました」と明かし、「友人を見舞う中で何度か自分たちの絵本を送ろうとしたのですが、これまで描いてきた中には、その状況にそぐう本が見当たらず結局最後まで送ることができませんでした。悲しみと不安の中にいる人にそっと寄り添い、励まし慰めてくれるような絵本を作りたいとその時、切に思いました」と回想。
続けて「このような時期、経験から描きたいテーマが膨れあがり、頭から筆を握る手に伝わって形となった絵本が『ゆうやけにとけていく』です」と思いを明かしました。
また、ザ・キャビンカンパニーの吉岡紗希さんはスピーチで「私たちは絵本というものに二度出会いました。一度目は幼い頃、母に読んでもらった記憶でよみがえります。一切を忘れ物語の中にただただ没入した幸福な時間でした」と語り、「2度目は成人となり、作り手として絵本を手にした時です。絵本を作るという視点に立つと、これまで読んできた絵本や児童文学が私たち読者へ何を与えてくれているのか、強烈に分かった気がしました」と絵本への思いを明かしました。