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「障害者が頑張ったから素晴らしい、ではない」 ろう者の俳優・長井恵里が望む社会の変化 

2023年10月26日 13:15
「障害者が頑張ったから素晴らしい、ではない」 ろう者の俳優・長井恵里が望む社会の変化 
俳優・長井恵里さん
俳優の宮沢りえさん(50)、磯村勇斗さん(31)、二階堂ふみさん(29)、オダギリジョーさん(47)が出演する映画『月』(公開中)。実際に起きた障害者殺傷事件をモチーフにした辺見庸さんの同名小説が原作です。映画では、深い森の奥にある重度障害者施設を舞台に、障害者への向き合い方など社会や個人が“見て見ぬふり”をしてきた現実や、事件に至るまでの人間模様などが描かれています。

この映画で、磯村さん演じる殺人犯・さとくんと同棲しているろう者の恋人・祥子を演じているのが、俳優の長井恵里さん(27)です。自身も、耳が聞こえず手話を第一言語とする、ろう者の長井さん。映画での役作りや、様々なハードルがある中で俳優を志した思いを聞きました。

■“他人事とは思えない” 実際の障害者殺傷事件をもとに描かれた映画に出演

映画について長井さんは「実際にあった事件の犯人の恋人役は、すごく難しかったです。当時のニュースもよく覚えています。福祉の面から見ると、私は障害者の方に入るわけで、自分とは全く関係のないものではなく、他人事とは思えませんでした」と明かします。

撮影が始まる前、恋人役の磯村さんと密にコミュニケーションを取ったといい「(会話する際に)手話や身ぶり、筆談など、目を見て積極的にコミュニケーションを取ってくれました。その姿を見た時、その関係性や感覚をそのまま役に重ねて演技ができたかなと思います」と振り返りました。また「映画の中では、2人が付き合って何年目であるとか、祥子の生い立ちがどうか(を話し合った)。ろう者も育った環境によって、口話を使うとか、手話を使うとか(コミュニケーション方法に違い)があります。映画の中では手話で会話をしているんですが、本当の気持ちを伝えたい時には、スマホのメモ機能を使うなど、いろいろな方法でチャレンジをしてみました」と撮影時の工夫を明かしました。

現在、映画やドラマなどで活躍する長井さん。演技の世界に足を踏み入れたのは、大学4年生の時だったといいます。「ろう者の監督の今井ミカさんから、“今度映画を作るので、役のイメージに合っているからお願いしたい”という依頼がありました。その時、私は深く考えずに、いろいろとチャレンジしたい性格だったので、依頼があったからいいですよと受けました。それで映画デビューという流れになりました」と振り返りました。

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■俳優の道を歩む決意したできごと「当事者が演じることが大事」
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