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元宙組トップ・凰稀かなめ、「いまわからなくてもいい」上級生から下級生へ受け継ぐ宝塚の伝統

2022年12月8日 20:10
元宙組トップ・凰稀かなめ、「いまわからなくてもいい」上級生から下級生へ受け継ぐ宝塚の伝統

宝塚歌劇団・宙組トップスターの凰稀かなめさん。下級生にアドバイスする時には、自身が上級生から伝えられた言葉が念頭にあったという。先輩から後輩へ、100年以上にわたって受け継がれる宝塚の伝統と上下関係とは――。熱烈な宝塚ファンである日本テレビアナウンサーの安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が迫った。(・中・後編の中編)

■芝居の楽しさを知った『ボニー&クライド』

(中島アナ):凰稀さんは下級生の頃から抜てきをされていたように思います。在団時の印象的だった公演はありますか。

(凰稀さん):私がまだ雪組の時にバウホールの若手ワークショップというものがありまして、その時に、ボニー&クライド(『凍てついた明日』)という作品をさせていただきました。A・Bと分かれていたんですけど、私はその両方で主演をさせてもらいまして、その時にお芝居の楽しさを初めて思いました。

腹に落とす芝居の仕方や色々なことを先生に教えていただきまして、いま自分がお芝居が好きで、舞台をさせていただいているのは、その時に芝居で学べたことが大きかったと思います。すごく好きになった作品だったので。

(中島アナ):拝見しました。悪だけど、繊細で。2人の関係もすごいバランスで成り立っている。いわゆる宝塚の男役とはちょっと違ういぶし銀と、渋い部分も多くて。印象的だったエピソードはありますか。

(凰稀さん):A・Bで相手役が変わったんです。愛原実花ちゃんと大月さゆちゃん。芝居や役の捉え方が全然違っていて。愛原実花ちゃんの千秋楽の日。まだ大月さゆちゃんの千秋楽が残っていたんですけど、最後、銃で撃たれて蜂の巣になるところがあって。その時、向き合っているだけなんですよ。千秋楽で(愛原さんが)号泣していて。そっか、かわいいなと思いながら。

(中島アナ):セリフを言おうとするけど言わないでという、ハッとするところですね。

(凰稀さん):見てますねー(笑)。ありがとうございます。

(中島アナ):この時に最下級生だった彩風咲奈さん(雪組トップスター)が来年、バージョンは違うけれどもまた『ボニー&クライド』の公演を予定されています。

(凰稀さん):そうですね。見に行けたら行きたいなと思っています。

(中島アナ):雪組時代を知る方からもコメントをいただいております。彩凪翔さん。

(凰稀さん)あらま、翔!

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――凰稀かなめさんの印象は?

とにかく美しい、容姿端麗という言葉がぴったりあてはまる憧れの上級生さんでした。私が雪組でご一緒させていただいたのは短い期間でしたが、芸事にいつもストイックに向き合われているところも尊敬していました。

――思い出に残るエピソードは?

やはり卒業後に、「TARKIE THE STORY」で共演させていただいたことです。退団後に凰稀さんがお芝居を作られる過程や、共演者、スタッフの皆さんへの関わり合い方などを間近でみせていただいて、学ばせていただくことが本当に多かったです。
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(凰稀さん):ありがとうございます。私の雪組時代にお手伝いをしてくださっていまして。入って1年ぐらいですかね。すぐに組替えになっちゃったんですけど。常に、隣や後ろでくっついて歩いてくるような子だったんです。その後、スターさんで頑張っているなと全部見てきました。

そんなずっとなじみのある翔と、退団後、一緒に舞台ができたのもすごい縁だと思いましたね。辞めてすぐだったので「男役として格好よくなったね」と本人に言いました。

■『モンテ・クリスト伯』がターニングポイント

(安藤アナ):宙組に移られてからのターニングポイント、思い出に残る作品はありますか。

(凰稀さん):『モンテ・クリスト伯』で、今までの自分のイメージとはかけ離れている役をさせてもらえたのがやはり大きいです。その前後が『銀河英雄伝説』のトップお披露目公演と『うたかたの恋』の全国ツアー公演。もう金髪で王子様だったので、まったく違うものにしようということで。

映画を見させてもらって、ほぼ牢獄の髭もじゃの場面しかなかったんです。宝塚だからトップにあんなぐじゃぐじゃな格好はさせられないということで、その時の演出家の石田昌也先生が10分間だけにするという決まりにしたんです。だったらグッチャグチャにしてやれと、もうめちゃくちゃにしましたね。

大体、メイクやかつらといったものは、全部自分で考えるんです。顔も手も体も足も全部汚して、見えるところは全部グッチャグチャにして。そこが結局、土台となって、復讐が始まるから、そこがちゃんとできていないと意味がないと、演出家さんと言い合いましたね。でも「綺麗じゃなきゃダメなんだ」と迷っていましたけど。

(安藤アナ):下級生は宙組・凰稀さんのことをどう見ていたのかということで、別の方からコメントもいただきました。蒼羽りくさんです。

(凰稀さん)りく!

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――凰稀かなめさんの印象は?

りかさん(凰稀さん)はご自身に対してとてもストイックに厳しい方でした。そして舞台に対してとても熱い情熱をお持ちの方です。新人公演でりかさんのお役をさせていただいた時、お役に対する意識や考え、所作一つ一つに対してここまで考え抜き、舞台に立っていらっしゃるのかと勉強させていただいていました。私の性格を見抜き、的確なアドバイスや舞台人としてのお考えなど多くを教えてくださった素晴らしい上級生の方です。

――思い出に残るエピソードは?

3度目にりかさんのお役をさせていただいたのは『風と共に去りぬ』のレット・バトラーのお役でした。その時りかさんが「今、私が話していることや伝えていることは今すぐわからなくてもいいんだよ。いつかりくが上級生になった時、わかってくれたらいいし、わからなかったらそれでもいいんだよ」と優しくおっしゃってくださったことがありました。当時の私なりに教えていただいたことを理解しよう!吸収したい!と思っていましたが、自分の学年が上がり、色々な経験をした時にこのりかさんの言葉がすごく染み込んできたことがありました。その時りかさんからいただいた私に対しての心のこもった言葉が、私にとって心の支えになっていたのだととても感謝しています。

また、りかさんがご卒業される時、レット・バトラーの時にりかさんが使われていたカフスボタン3つを私にお譲りいただき、本当に嬉しくて大切に使わせていただいていました。このカフスは今でも大切に私の思い出の宝物として保管しています。
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(凰稀さん):うれしいです。とっておいているのね。下級生に渡しているかなと思った。

(安藤アナ):「いまわからなくてもいい」という言葉は、どういうところからですか。

(凰稀さん):私もそうだったんです。言っていることがまだ理解できない学年だった時に、私も上級生にそう言っていただけたんですね。いま分からなくてもいいけど、その言葉は絶対にあなたの心の中とかに残っているはずだから、それが何年後かすぐに分かる時と分からない時、15年経っても分からない時もあるかもしれない。けれど、自分が上に立ってきたら、それがだんだんわかってくるようになるからっていうことは常々言われていましたね。あなたが真ん中に立つ時が来るかもしれないから、覚えておきなさいっていうことで、真ん中に立つ大変さとか、こうした方がいいということも、全部上級生が教えてくださった。

やはり上級生の1年は大きいと思いましたね。先輩が経験された1年はすごく大きいことで、経験された先輩方からの言葉はすごく重くて。それが立場や学年が上がっていくにつれて、どんどん重くのしかかってきた。その分もちろん自分もやらなければいけないですし、後に宝塚を背負う子たちにも教えていかなければいけない。私もそれで、りくにも教えていたと思うんですよね。りくには、一番厳しくしていたかもしれないです。

(中島アナ):それだけ期待をして。脈々と続いていくのが宝塚の伝統なんだなと思います

(凰稀さん):そうですね。期待していましたね。すごくいいものも持ってましたし、素直ですし、一生懸命だったので。100周年、今、どれぐらいですかね。108ですかね。108年(伝統が)生きていると思うので、先輩方、今まで携わってくださった方に感謝して頑張っていってほしいなと思いますね。

(後編へ続く)

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アプレジェンヌ 〜日テレ大劇場へようこそ〜』は日テレNEWS24のシリーズ企画。元タ カラジェンヌをお招きし、日本テレビアナウンサーで熱烈な宝塚ファンである、安藤翔アナ(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生アナ(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。