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落語家・林家つる子 女性初の抜てき真打が挑戦する“女性目線で描く古典落語”とは

2024年3月21日 22:10
落語家・林家つる子 女性初の抜てき真打が挑戦する“女性目線で描く古典落語”とは
女性目線の落語に挑戦する林家つる子さん
落語協会としては初となる、女性で抜てき真打となった林家つる子さんの、二ツ目最後の独演会を取材。古典落語を女性目線でアップデートする落語に挑戦しているつる子さんに、女性目線での落語に挑戦するきっかけや、ネタに込めた思いを伺いました。

つる子さんは、大学時代に落語と出会い、卒業後、九代目・林家正蔵さんの元に弟子入り。2015年に『二ツ目』昇進を果たし、落語協会として約12年ぶり、女性落語家としては初となる抜てきでの『真打』に昇進。3月21日から鈴本演芸場を皮切りに都内5か所で45日間の真打昇進披露興行を行います。

――抜てきでの真打昇進を聞いた時はどのように思われましたか?

素直にうれしいって思いはやっぱりありましたね。名前をあげていただけたということは何かしらを見てくださってた師匠方がいらっしゃったんだなというのはすごくうれしかったことでした。

■おかみさんを主人公に古典落語を描き直す

古典落語のほとんどは男性の落語家が作り上げた話芸といわれ、酒や遊郭遊びなど男性目線で語られる演目が多い中、つる子さんは二ツ目時代から、古典落語の名作『子別れ』や『芝浜』に登場するおかみさんを主人公にして女性目線で描き直すことに挑戦しています。

――女性目線の落語に挑戦するきっかけを教えてください。

前座のころ、師匠方のトリのネタを舞台袖で聞いているときに、“このシーンの裏側ってどうなってたんだろう”って気になる話がいくつかあったんですね。特に『子別れ』と『芝浜』が、おかみさんの存在っていうのが気になって。やっぱり亭主が主人公で話が進むので、その裏でおかみさんがどういう動きをしていたか、どういう感情だったかっていうのが、なんとなく自分の中でこうだったんじゃないかみたいなのが膨らんできたので、おかみさんを主人公にした形で、スピンオフといえばいいのかわからないですけど、そういう形で挑戦したいなと思ったのがきっかけでした。

――つる子さんの挑戦について、正蔵師匠はどんな反応だったのでしょうか。

この挑戦をするときに、事前にこういう挑戦をしたいと思っているんですって言わせていただいたんですね。そうしたら“いいんじゃないか、やってみろ”って。私が前座のころから師匠がかけてくださっていたお言葉があって、“とにかく頭でっかちにならずにいろんな事に挑戦していってほしい”と。古典落語の基礎を身につけて、良さをどんどん育てていくっていうのは重要で大切なことなんだけど、そのほかに、女性の噺家(はなしか)にしかできないことも俺はあると思うから、女性ならではの挑戦もどんどんしていってほしいと思っていると師匠がずっと言ってくださって。そのお言葉があったので、今回の挑戦もしてみようと思いました。

■夫婦の形は「理屈じゃない」

今月17日に鈴座 Lisa cafeで二ツ目として最後の独演会『ツルノヒトコエ vol.3 二ツ目最後の独演会』を開催したつる子さん。そこで、最後のネタに選んだのは古典落語を女性目線で描いたつる子さんオリジナルの『子別れ』でした。

古典落語『子別れ』は、主人公で大工の熊五郎が、家に帰らずに三日間も遊郭で遊び、家に帰ると妻のお徳と大げんかに。お徳は愛想をつかし、息子の亀を連れて出て行ってしまいます。それから3年後、遊びもやめ真面目に働く熊五郎は偶然、息子の亀と再会。最後は亀が熊五郎とお徳を引き合わせ、熊五郎からまた元に戻りたいと告げられたお徳が“ありがとう”と熊五郎と一緒になれることを喜び、ハッピーエンドで終わる人情ばなしです。

――本来の古典落語の『子別れ』と、つる子さんが女性目線で描いた『子別れ』。どのような違いがあるのでしょうか。

本来、大工の熊五郎が更生して、お仕事を頼まれた番頭さんと一緒に木場へ行くシーンから始まって、(息子の)亀ちゃんと再会してお小遣いだよって50銭あげて、おっかさんの家に戻るっていうのが必ずあるんですけど、そこをごっそりなくして、裏側でおかみさんが亀ちゃんとどういう生活を送っていたのかなというところを描きたかった。

『芝浜』を女性目線で描くという挑戦をする時に、いろんなご夫婦に夫婦間のお話を聞いたんですね。そのときに“なんか一緒にいるんだよね”って。すごくささいなことが夫婦をつなげる支えになっている気がして。別れて一緒にならないということでもそれはそれでいいと思う。ただ、子別れの夫婦の場合は一緒になるっていう結末は崩したくなかったので、許せないことがあるけど、この人と一緒にいたいとおかみさんが思っていたということを出せたらいいなと。ちょっとだめな男の面倒を見るのが好き。これも現代によくあるんじゃないかなと、“なんでこの人はこの人と一緒にいるの?”って、これは理屈じゃないと思うんですよね。

もちろん腕のいい大工さんで、過去に好きで一緒になった二人だと思うので、前のその人に戻っているんだったらある程度、情も戻ってくるでしょうし、まして亀ちゃんっていう存在もいますし。でもそこで、やっぱり(復縁を切り出されてお徳が)“ありがとう”って言うのが、そうじゃないような気がしたので。結局復縁を切り出されて、“許さない”っていうのはちゃんと口に出して言っておきたかったんですね。許さないけど、どうしようもない気持ちでまた前に進んで行く。理屈で片付けなくていいというか、感情のままいけばいいんだよっていうのを、現代の人にも共感できるかなと思ったんですよね。恋愛とかは特にそうかなと思うんですけど。失敗もまたするかもしれないけどそれはそれでいいし、そういう部分をおかみさんのセリフを足すことで伝えられたらいいなと思いました。

――最後に真打昇進披露興行への意気込みを教えてください。

客席で見ていた寄席でトリを取る日がくるのかと思うと本当に感慨深い思いでいっぱいなんですけど、お祭りのようににぎやかな興行になるので、初めて行くけど大丈夫なのかなって人も大丈夫なので、真打披露興行は特に豪華な師匠方がお出になりますし、新真打の挨拶披露口上というのもありますので、積極的にお越しいただけたらうれしいなと思います。