没入感こそが魅力! 『カメ止め』監督が語る“縦型ショートドラマ”【SENSORS】
今、TikTokなどの動画配信サイトでは「縦型ショートドラマ」がブームだ。「縦型ショートドラマ」は、スマートフォンやタブレットでの視聴を想定して縦型で撮影し、1話数分で展開する。
人気の理由と、映画やテレビとは異なる魅力を探るべく、2017年公開の映画『カメラを止めるな!』で一大旋風を巻き起こした上田慎一郎監督に聞いた。上田監督は、自身の監督作「レンタル部下」が第76回カンヌ国際映画祭で開催した「TikTokショートフィルムコンペティション」でグランプリを受賞するなど、縦型ショートドラマでも活躍している。
■「エジソン的回帰」が、人気の理由
──今、縦型ショートドラマが人気ですが、その理由は何なのでしょうか。
縦型ショートのことを「エジソン的回帰」という人がいます。エジソン的であるからこそ、没入感を持って見ることができるので、それが人気の理由の1つだと思います。どういうことかというと、映画の起源として、エジソンは1890年にキネトスコープという1人で箱の中をのぞき込むタイプのものを発明しました。スマホと近いもののように感じますよね。
その後、1895年にリュミエール兄弟がシネマトグラフを発明し、映像をスクリーンに投影して多くの人がともに鑑賞できる、現在の映画のスタイルが生まれました。
当初はフィルムの関係でショートドラマしかなかったんです。今、「ショートは映画じゃない」という声もありますが、そもそも映画の出発はショートなんです。
スマホやタブレットって、見る人と映像との距離が近いですよね。見る人と画面とが“1対1”なので没入できるっていうのが、大きいんじゃないかと思います。
また、縦型ショート動画では、ある人物がしゃべって、次の人物がしゃべって……というときにロングショットを入れると、一瞬没入感が切れてしまうので、あまり引きの映像を入れないんです。それで人物のアップがずっと映っていることで、さらに集中が切れずに没入して見ていられる気がしますね。
これは少し推測になってしまうんですが、人間の顔ってすごく情報密度が高いんですよ。例えばちょっと1ミリ目が泳ぐだけで、それを見ている人は、情報として察知します。ものすごく多くの情報が動き続けてるんだと思うんですよね。空や葉っぱを映しているとき、情報量は人間を映しているときよりもかなり下がります。その、情報密度がすごく高い“人間”が常に映ってるということが、さらなる没入感につながっているのかなと思います。
■映画と全く別のニーズに応える、縦型ショート
──他にも、人気の理由はありますか。
もう1つ僕が思う人気の理由は、時間ですね。縦型ショートは、劇場映画やテレビドラマと尺やテンポが全く違って、2倍ぐらい早いんです。シナリオ脚本を書くとき、スタンダードなシナリオ書式では1ページ1分換算です。でも、それが2〜3ページで1分ぐらいなんです、ショートドラマは。
情報処理能力が高まった現代人にとっては、これぐらいのスピード感がいいのかもしれません。最近、若者でも倍速視聴をする人たちが話題になっているじゃないですか。現代人のライフスタイルはどんどん細切れになっているので、ちょっとしたスキマ時間で見るならこれぐらいのテンポ感のものが心地良いのかもしれません。短い時間で、より多くの情報を得られることが、大事なんじゃないかなと思います。
一方で、倍速視聴をするような人たちも、映画館にも映画を見に行くらしいんです。倍速で見るものと、映画館でゆっくり見るものとで、モードを切り替えているんですよね。
■縦型ショートは、スマホとやる気があれば撮れる
──映画やテレビとは違う魅力としては、どのようなものがありますか。
縦型ショートで特に大きいのが、TikTokなどのSNSで公開するので、コメント欄があることではないでしょうか。フィードバックがすぐに来るんです。昔は、マスメディアや劇場を通さない映画の場合、身内だけに見てもらって、少ない身内のフィードバックをもらって次をまた作るというような感じだったと思いますが、今は全世界の人から率直なフィードバックをもらえるじゃないですか。
しかも、自分が想定していたリアクションと違うものが来たりして、「自分はこう思って作ったけど、こういう人も結構いるんだ」と、リアクションが来ることによって改善点が見えて、すぐに次に生かせて、加速度的に成長していけるというのが魅力ですね。
縦型ショートドラマは、予算、スタッフやキャスト、ロケ地の数などを抑えられます。スマホとやる気があれば撮れるのも魅力ですね。だから、若手が参入しやすくなったり、挑戦的な内容が作れるようになったりして、縦型ショートフィルムはこれからますます増えていくんじゃないかなと思います。
それがどこまで広がっていくかっていう映像業界の未来の話になっていくと、僕にも正直わからないですが、自分たちで作っていくしかないと思いますね。
倍速視聴やスキップ視聴が一般化する現代、ユーザーにとって縦型ショートドラマは気軽に見られて短時間で没入できるため満足度が高い。一方で、クリエイターにとってもコストや撮影時間が抑えられ、挑戦しやすく貴重な場となっている。縦型ショートはブームを超えて、スタンダードなエンターテイメントになっていくのかもしれない。
(5月18日放送『Z STUDIO SENSORS』より再構成)