元宝塚トップ娘役・朝月希和「背筋が伸びました」卒業伝えた際の相手役・彩風咲奈の言葉――頼れる同期・和希そらへの思いも
■入団12年目、遅咲きのトップ娘役就任
――雪組トップ娘役に就任が決まった時、どんな心境でしたか。
組替えからまだ1年経っていなかった時でしたので驚きました。「私が(トップ娘役)ですか?」という驚きの直後に、すぐに不安と緊張と身の引き締まる思いと、色々な感情が駆け巡りました。
娘役をずっとやってきて、そのような立場をいただけるということにありがたいと思いましたし、学年が上がってから就任することに責任感もあるのかなと。でも本当に「どうしよう」という思いが一番大きかったです。
――同期にはトップ娘役を経験した方が3人(花乃まりあさん、咲妃みゆさん、綺咲愛里さん)。当時やりとりされましたか。
トップ就任が発表される時に3人には電話で連絡をしました。みんな本当に温かくて、「おめでとう、頑張ってね」と声をかけてくれて、とても大きく感じました。私にないものをたくさん持っている3人。現役時代から舞台姿を見て学ぶこともたくさんありましたし、普段も尊敬する部分がたくさんあります。
『夢介千両みやげ』の時に咲妃みゆが観に来てくれて、その日の夜に電話をくれたんです。私がお芝居で悩んでいることを相談したらアドバイスを的確にくれたり、娘役目線で見てどうだったと言ってくれたり。最後には少しリラックスできるような他愛もない会話をして、次の日にうまくいかなかったところも頑張ってみようと思えました。
私がお銀という役で、一生懸命、夢さん(夢介)のお嫁さんになりたいという役でした。「一生懸命さが伝わってきて、それがともこ(朝月さん)のいいところだから、そこをしっかり持ってやったらいいよ」という言葉に、すとんと落ちたものがあって。お銀として夢さんのために変われることを、どうしたらうまく表現できるだろうと悩んでいた時だったので、ストレートな言葉に「ありがとう」と素直に思ったんです。
――同期のトップ娘役が3人いる中で、『どんなトップ娘役になりたいか』、掲げた理想像はありましたか?
私は人に言葉で教えるのがあまり上手な方ではないので、芸事に向かっていく姿から少しでも伝わっていくものがあればと思っていました。花乃まりあは同じ花組時代に一番近くで見て、あとの2人は舞台上で見ていて、その姿から学ぶものが多かったです。私も自分がこだわっていることやお芝居で大切にしているものが、私の姿を通じて下級生に少しでも伝わったらいいなと思っておりました。
■思い出の「100tハンマー」
――深掘りしたい1本は『CITY HUNTER』です。トップ娘役に就任して初めての大劇場公演で、主人公・冴羽獠のパートナー槇村香を演じました。この作品は朝月さんにとってどんな作品ですか?
大劇場のお披露目公演でしたので、自分の中でも大切でとても印象的な作品です。アニメと漫画が原作ですから、立体的に(舞台に)飛び出してきた時に、いかにそのままキャラクターが動いてそこに存在しているようになるか、ということを大切に作っていました。
香はずっとボーイッシュな格好をしていて、でも内面はすごく女性らしい。それが槇村香の魅力かなと思っていました。言葉遣いも男性っぽい。でもその中に優しさとかちょっと獠への思いや乙女心があるのが垣間見えて、そういうギャップを大切にして役作りを深めていきました。
「100tハンマー」をやっぱり思い切り振り下ろすというのは勇気がいることでしたので、お客様が見るシルエットを大切に、アニメとか漫画をしっかり見て忠実に再現したいなと思い、鏡で何回も見ながら練習していました。
――100tハンマーはサヨナラショーでも登場しましたが、ご自身の中で思い出に残るものですか。
例えば『CITY HUNTER』が今後もし再演された時に、この100tハンマーを振る娘役さんがもっと皆さんに愛されてほしいという思いがとてもありました。私が自分の卒業の最後に振ることで、このハンマーの良さが伝わったらいいなと。あとは明るく楽しく、最後に皆さんに感謝とお別れをお伝えしたかったので。
この100tハンマーを振る時の雪組の皆さんがとてもあたたかくて、リアクションをとってくださって、温かい演出をしてくださったことに本当に感謝しています。
――その中には同期の和希そらさんの姿もありました。
ずっと違う組で、同じ組になったのは1年ぐらいでした。でも1年しかいなかったんだと驚くぐらい、あっという間に馴染んでいて。私はしおりと呼んでいるんですけれども、しおりにはたくさん甘えたり、たくさん色々なことを教えてくれたりして。稽古場でも私が1人でぐるぐる考えてしまってそこから抜け出せない時に、すぐに察して「あそこをこうしてみたら?」と言ってくれて、なるほどとひらめきに変わったことも。本当に一番身近にいる先生みたいな存在でした。
最後の階段降りの時に緊張していたんですけれども、しおりの一言でちょっと笑ってしまうようなリラックスをさせてくれたりとか。ちょっとやんちゃなイメージがありましたが、宙組で培ってきたものがすごいんだなというのを組替えしてきた時に感じました。本当に尊敬する同期ですね。
■背筋が伸びた彩風咲奈さんの言葉
――そして相手役の彩風咲奈さん。朝月さんにとってどんな存在ですか?
私が未熟で今でも反省することばかりで。歌とお芝居と踊りの心の大切さ、重要性というのをいつも教えてくださって、進むべき道を示してくださった方です。就任の時に「一緒に歩いていってほしい」とおっしゃっていただいて、自分でもしっかり立って歩いていく心の強さを持たなきゃいけないと感じました。
――退団を伝えた際はどんなリアクションでしたか?
卒業を決めてから咲さんにお話したんですけれども、「終わりが見えたからと言って妥協しないで最後まで芸事はしっかりしていこう」とおっしゃってくださって、もう「はい!」と背筋が伸びました。
それだけ毎日前進していく、進んで行かれる咲さんの隣に立たせていただけることのありがたさをその瞬間に感じて、もっとできることをやっていかなきゃいけないと思いました。
――退団してから今、雪組はどう見えていますか。
梅田芸術劇場と御園座での公演を拝見しました。下級生が前の作品でどんなことを頑張って取り組んでいたかも稽古場で見ていたので、この子が頑張っている、成長しているとか、娘役さんが上手に素敵に(役を)作っているとか、そういうことがとてもうれしくて幸せ。ただただ幸せの時間でした。(成長を感じられて)それがうれしい。勝手な姉心、母親心と言いますか。
舞台に立たせていただいている時も本当に幸せでしたけれど、卒業したら劇場に足を踏み入れて約3時間、その世界を過ごせるだけでこんなに幸せなんだなと、客席からまた違う幸せを与えてもらえるのを感じます。この「ありがとう、みんな」という思いも舞台上に返しながら見たいなと思いますね。
(『アプレジェンヌ〜日テレ大劇場へようこそ〜(朝月希和編)』より抜粋・再構成)
◇ ◇ ◇
『アプレジェンヌ』は日テレNEWS24制作のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビで熱烈な宝塚ファン、安藤翔(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。