上白石萌音「共感したり、同情したり、一切しない」 PMSとパニック障害がある主人公たちから学んだこと
■当事者と寄り添う側を同時に演じて「おせっかいってうれしいなって」
原作は、『そして、バトンは渡された』で2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの同名小説。普段はおおらかな性格ですが、月に一度のPMSでイライラが抑えられない“藤沢さん”と、会社の同僚でパニック障害がある“山添くん”が、お互いの事情と孤独を知り、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく様子が描かれています。
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――藤沢さんが山添くんに対して「PMS」であることを打ち明ける場面があります。周りの人に悩みを打ち明けることは勇気がいると思いますが、どのように感じられましたか?
藤沢さんと山添くんが、途中から本当に気をつかわずに話ができるようになるのって、2人の人間的な相性の良さっていうのも一つあるとは思うんですけど、もう一つが「自分の中にためておくと、自分の心身に悪いから」というところがあると思うんです。
PMSとかパニック障害に限らず、生きている人みんなそうだと思うんですけど、少しでもストレスがたまらないように、モヤモヤが沈殿してしまわないように、「あなたにだったら私言える」と、ポンっと言っちゃう場面が増えていくんですよ。思ったことを、後先考えずにとりあえず出せちゃうってすごく健康的なことだと思いました。ただ相手によりますし、TPOがすごく大切なことなんですけど。2人はそれができる相手を見つけたんだなと、演じていてすごく思いました。
――今回、症状や悩みを抱える当事者側と、悩む人に寄り添う側、2つの立場を同時に演じることで得た学びや気づきはありましたか?
おせっかいってうれしいなって。人のために何かを思いついて、何かしてあげたいという気持ちがあっても、「迷惑かな」とか「そこまで欲してないかな」とか考えちゃうと思うんですけど、藤沢さんはそこを「えい!」っていける思い切りの良さを持った人で。そうすることで山添くんも「えい!」って踏み込んできてくれる。ちょっとズレてたとしても「こんなに思ってくれてるんだ」「気にかけてくれてるんだ」という気持ちがすごくうれしいので、「何かしてあげたいな」という強い気持ちがあったら「GO!」だと思いました。
■2人の関係性から学んだこと「正直に話すってこういうことなんだ」
――藤沢さんを演じて、今後ご自身の生活の中で生かしていきたいと思ったことはありますか?
私は2人の「話を聞くスタンス」がすごく好きで、過剰に共感したり、同情したり、一切しないんです。すごくいい距離感で「へー」って思ったら「へー」って言うし、変に距離をつめようともしないし、優しくあろうともしない。そのスタンスって話を聞いてもらう時にすごく楽だなと思って。「分かるよ」ってウソをつかれるよりは「分からない」って言われた方が楽だなと。人と正直に話すってこういうことなんだなっていうのを2人に教えてもらえた気がして。こういう聞き手でありたいし、こういう話し手でありたいなって思いました。
――PMSやパニック障害に限らず、“見た目からは分からない”症状や悩み、生きづらさを抱えていらっしゃる方はいると思います。「少し大変だけど、いいこともある」「心が少し軽くなった」と感じてもらえるように、周りにできることはどのようなことだと思いますか?
原作の中ですごく好きなセリフがあって。2人が勤める会社の社長が言う言葉なんですけど、社長が知らないと思って藤沢さんが「山添くん、パニック障害なんです」って気を利かせて言いに行くシーンがあるんです。それを受けた社長が「ああ、知ってるよ。でも僕は水虫だし、なんとかさんは肩こりだし、あの人は腰痛がひどいんだって。みんな完璧に健康な人なんていない。みんな何か抱えて生きてるんだよ」っていうセリフがあって。きっとそういうことなんだろうなって。「あの人が特別」「あの人が困ってるから助けなきゃ」とか、それは緊急の時とか大切だと思うんですけど、「(つらさや悩みは)みんなあるよね」「だから一緒に頑張ろうね」って。それでいい気がします。
――映画をご覧になる人にどんなことを感じてもらいたいですか?
「あの人は私にとってすごく大切なんだな」って改めて気づくきっかけになったらうれしいし、「これから先、山添くんみたいな人に出会えるかもしれないな」っていう希望になってくれたらうれしいです。ちょっと心がしずんだ時とか、反対にすごく優しい気持ちになった時とかに、ふと思い出してもらえる映画になったら幸せだなと思います。