真琴つばさ「今日の後悔は明日の希望」宝塚時代を振り返る……忘れられない初の「せりあがり」
<真琴つばささんプロフィール>
東京都品川区出身。11月25日生まれ。1985年に71期生として入団。花組を経て1997年月組トップスターに就任。宝塚随一のエンターテイナーとして絶大な人気を誇った。また、「TAKARAZUKA1000days劇場」、「東京宝塚劇場」と2度のこけら落とし公演も務める。現在は女優・歌手として舞台、テレビと幅広く活躍中。
■新人公演で見た光景
――花組・月組、合わせて16年間宝塚に在籍されましたが、印象深い作品はありますか?
実は意外と『ベルサイユのばら』の新人公演です。アンドレを演じたんですけれど、そこで初めて「せりあがり」を経験したんです。下からのせりあがりを初めて経験して、その時の景色は未だに忘れられない。
――どう見えるのでしょうか。
初めてが舞台稽古だったんですね。奈落にいてまさに舞台裏というところから、ぶわーっと上がっていったときに舞台の先から見えた光景。
宇宙飛行士が初めて地球を離れて宇宙に行ったみたいな。舞台稽古だから客席に誰もいないんですよ。もう宇宙そのもの。ああスターさんはこんな感覚なんだと。
――そのときが入団6年目。その景色を見ることで何か変わったことはありましたか。
なかなか見られない景色を見られた。貴重な経験です。主演させていただいたけれど、毎回あるわけではないので。初めてのせりあがりは最高でした。
――『ベルサイユのばら』という人気作品の新人公演でアンドレ役。プレッシャーがあったんじゃないでしょうか。
実は、その少し前に試験があったんです。すべてが平均点ぐらいで、先生方やプロデューサーの方に「君はやる気が見えない」と言われて。私、タカラジェンヌ人生終わったと思った直後に、このアンドレの役をいただいた。とてもうれしかったし、頑張んなきゃと。
――ほかに印象深い作品はありますか。
忘れられない大きさで言えば一番が退団公演の『愛のソナタ』。(東京宝塚劇場の)こけら落とし公演であって、東京初演だった。そして私の退団公演。あとはNHKさんが初めて元日の生放送に挑戦なさったんです。色々なプレッシャーがあり、もう千秋楽では自分の声がよく出ていたなという声を出していました。自分の退団よりも、こけら落とし公演をしっかりと務めないと、という思いがありました。
――こけら落とし公演を2度もするというのは、宝塚の長い歴史の中でも非常に珍しいですよね。そうした中でたくさんのメディアにも露出され、テレビの密着取材なども入っていました。
取材は多かったです。晴海ふ頭に行って。風が吹く年末ですよね。退団に向けた今の思いなどを語っている特集組んでいただいて。あと最後の稽古場(の密着)。あの時代はイキっているわけですよ。(もらった)赤いバラの花束を抱えて「じゃあね、バイバイ」と帰ろうとしたら、ドアにぶつかって…。本当に私の人生かっこよく終われないなって。
――その中でも自分らしく、常にご自身の言葉で発信されている様子がとても印象的でした。何か意識されていたことはありますか?
宝塚にいた時は「3分の2の歴史と3分の1の冒険」と自分で言っていました。その冒険の一つひとつが歴史につながっていく。そんな冒険的にメディアに出たりしてもいいのかなと思っていました。
■同期にトップスターが4人
――71期は同期でトップスターが4人揃うという時代でした。(花組・愛華みれさん、月組・真琴つばささん、雪組・轟悠さん、星組・稔幸さん)
舞台上で(4人が)並んだのが1000days劇場の最後の公演『アデュー』の時だけだったんですよ。「私たちやっと一緒に立てたね」という感じでした。『TCAスペシャル』(各組のスターが勢揃いする公演)では、誰かが東京公演で欠けていたので。だから(4人が舞台上で並んだことが)うれしかったことは覚えています。
――入団する時にみんなでトップを目指していこうということがあったのですか。
いや、トップ目指そうということはあまりなかったですね。とても気遣いがそれぞれにある同期ですね。
――そして今、95期生の柚香光さん、月城かなとさん、礼真琴さんが同時にトップスターで活躍しています。どのように感じますか?
同期同士で何人かトップがいると、自分のことのようにうれしく思うんです。どんな感じなの?と聞いてみたいですね。
私たちの時には、若いころはきっと、例えば競泳プールで隣で泳いでいて気になったりするような(感覚が)あったと思うんですけど、主演をするようになると(自分が)泳ぐことに必死で、競争心ではなく、たぶんみんな違うプールでそれぞれに泳いでいるんだろうなという心強さはありました。
前を切り開くことに大変で、競争心とかではない。同じように頑張っている同期が隣にまた別のプールにいるって思うと自分も頑張れる。ちょうど新しい劇場のこけら落としの際に、会ってしゃべる機会がありましたけど、(同期に会えると)安心感があります。
――今、舞台に立っていらっしゃる95期の皆様にも頑張ってほしいですね。
今は、横がどうこうという余裕はないかもしれないですね。ただ、年とともに同期の存在感が増してくるんです。彼女たちが10年後、20年後に会ってどんな話をするのかなと、今からとても楽しみですね。
■「今日の後悔は明日の希望」
「今日の後悔は明日の希望」です。舞台で失敗することもあるわけです。うまくいかなかったことばかり気になって後悔して、「なんで私はあんなことしたんだろう」という日がずっと続いていて。ある日、できなかったことを明日こうしようと思ったことが自分の中の希望になったんです。今日の後悔が明日の希望になるんだ。そう思った瞬間からとても気分、気持ちが変わったし、それが舞台の良さだなと思いました。
悪いことがあっても悪いことで終わらせない。それをいいことに転じようって思うやり方です。今でも普段のことでも、ちょっと落ち込むとそう考えています。希望って前を向きますよね。後悔は下を向きますよね。だから、その気持ちの方向転換だけでだいぶ違うかな。
(『アプレジェンヌ〜日テレ大劇場へようこそ〜(真琴つばさ編)』より抜粋・再構成)
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『アプレジェンヌ』は日テレNEWS24制作のシリーズ企画。元タカラジェンヌをお招きし、日本テレビで熱烈な宝塚ファン、安藤翔(妻が元タカラジェンヌ)、中島芽生(宝塚音楽学校を4回受験)の2人が、ゲストの宝塚時代・退団後の生き方に迫ります。