“ウクライナのアニメを日本へ” 映画公開にほぼ全財産をかけた日本人女性の思い
■映画を公開させるために会社を退職、そして起業
映画は、悪の魔法使いにさらわれた王女を、売れない役者の主人公・ルスランが助けに向かうファンタジー。粉川さんが日本公開を熱望するようになったきっかけは、2022年2月から続くウクライナ侵攻でした。「自分の愛する人を守るために全力で戦う主人公の姿が今のウクライナ侵攻で戦っている方々とリンクしてしまって」と作品に強く心引かれたといいます。
当時、映画の配給会社に勤めていた粉川さん。本作を配給しようと試みますが、スケジュールなどの理由で実現できませんでした。それでも諦めきれず「自分で起業するしかないなっていうふうに思って、すごく私にとっても勇気がいる決断だった」と、会社を退職。新たに配給会社を立ち上げ、ほぼ全財産を使って配給権を取得しました。
■街中で斎藤工さんを呼び止め、映画を猛アピール
その後、吹き替え版の制作と宣伝活動のためにさらなる資金が必要となった粉川さん。クラウドファンディングを実施し、約950万円の支援を集めました。
こうした活動の中で新たな縁もできたといいます。吹き替えを務めた俳優・別所哲也さんもその1人。「クラウドファンディングが終了する3日ぐらい前に(別所さんの)ラジオに出演させていただいたことがきっかけで、オファーをさせていただきました。別所さんがラジオで呼びかけてくださったおかげですごく盛り上がって」と感謝の気持ちから吹き替えのオファーをしたといいます。
また予告映像のナレーションを務めた俳優・斎藤工さんとは「私が疲れて有楽町をトボトボ歩いていたら、目の前に後光が差しているすごく格好いい方がいらっしゃって、よく見たら斎藤さんで。斎藤さんがこういう小さい作品を応援してくださる方っていうのは知っていたので、もう二度とないチャンスと思って、一回通り過ぎたんですけど、走って追いかけて、チラシを渡して」と街で偶然会ったときに呼び止めたことを明かしました。
斎藤さんはその場で応じてくれたそうで、「立ち話で10分ぐらい、クラウドファンディングをどうしたらいいとか、アニメーションとはみたいなアドバイスをいただいて」と相談に乗ってもらい、その後のナレーションのオファーに至りました。
■吹き替え声優にウクライナ出身の声優も「ウクライナの人たちに明るいニュースを」
さまざまな支援を受けて完成した日本語吹き替え版。声優の1人・工藤ディマさんはウクライナ出身で、戦争を機に日本に避難してきたといいます。日本のアニメが好きで声優を目指していた工藤さん。キャスティングについて粉川さんは「ウクライナの人たちに文化的なニュースで明るい気持ちになってほしかったので。他国に避難してそこで活躍している姿を見るのはかなり励みになるんじゃないかなって」と起用した理由を明かし、工藤さんの演技については「吹き替え収録には完璧な日本人のイントネーションで挑んでくださっていて、すごく練習したのが分かって、ディマさんにお願いして良かったと思いました」と笑顔で振り返りました。
今回、映画の収益の一部はウクライナの支援にあてられます。粉川さんは「戦争が長期化してなかなか問題が取り上げられにくくなった今だからこそできる支援の形と私は思っています。エンターテインメントの力でウクライナを盛り上げられたらいいなと思います」と意気込みを語りました。