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トップクリエーターから見た縦型動画の可能性【SENSORS】

2024年4月5日 20:53
トップクリエーターから見た縦型動画の可能性【SENSORS】

TikTok、YouTube ショートを中心に縦型動画を視聴できるメディアが急増し、ユーザーからの支持も高まっている。今回は、映像分野のトップクリエーターが集まり、縦型動画独特の表現手法やアイデアなど、制作者の視点でディスカッションを繰り広げた。

■つぶやくように投稿できる縦型動画

大ヒット作『カメラを止めるな!』で知られる、映画監督の上田慎一郎さん。2023年にはカンヌ国際映画祭の「#TikTokShortFilmコンペティション」において縦型映画『レンタル部下』でグランプリを受賞した。上田さんは、TikTok向けの縦型映画を制作するうえで、面白さ、そして難しさを感じた点について、次のように語る。

「映画館で一本の映画作品を見るシチュエーション、家にいて、スマホで縦型映画を見るシチュエーションをそれぞれ比較すると、想定される視聴者が異なります。すると、制作上の構成が変わってきます。たとえば、そもそも画角が違いますし、テンポ、スピード感など縦型映画ならではの独特の構成があるといえます。動画をたくさん見て、勉強してから作る過程もとても楽しかったです」

「縦型の画角から演出を考える、縦型の景色を探す、といったことにも取り組みました。たとえば、美容室では、お客さんと美容師さんが縦に並んで会話をしますよね。そのように、人が縦に並んで会話するシチュエーションを考えたり、探したりしました」

撮影から世の中に出すまでの早さも特徴的だと続ける。

「スマホで素早く撮って、編集して、すぐに発表できます。つぶやくように投稿できる点が非常に面白いと思っています。従来の映画やドラマは、企画、制作から公開まで長い時間がかかっていました。制作に時間がかかると、作品を発表するタイミングでは、既に世の中の空気が企画時点と変わってしまっていることもあります。しかし縦型映画の場合、極端にいえば、朝見たニュースにインスパイアを受けて、その日に撮って夜公開することも可能です。議論や論争が巻き起こっているテーマに対して、作品を通じて意見を表明し、それによってリアルタイムに世論を変えるなども可能だと思います。縦型動画というメディアの登場によって、動画制作に取り組むハードルが下がったといえるのではないでしょうか」

藤井風さんやYOASOBIのミュージックビデオなど、さまざまな映像を手がける、映像ディレクター関和亮さんは、大きな縦型のシアターが世の中に登場したら面白いのではないか、と述べる。

「縦型のフォーマットは、画面に盛り込むことのできる情報量は少ないのですが、ポートレートのように、メインの被写体に関する情報量は多くなるように感じます。現状、縦型のデバイスと言うとスマホがメインですが、デバイスが大きくなれば、風景を撮っても非常に綺麗に映えるかもしれない、と考えています」

日清食品カップヌードル「hungry?」シリーズや、サントリー「燃焼系アミノ式」など数々の有名CMを手掛けてきた、CMディレクターの中島信也さんは、縦型のCMを見て次のように感じているという。

「登場人物との距離感が、まるで目の前にいるかのように、とても近くに感じます。たとえば、アイドルやタレントのファン視点でより親近感がわき、横型のCMと違ってよりパーソナルな関係を構築できるような印象を受けています」

■SNS時代のクリエーターの生き方

クリエーターが活躍可能なフィールドや、マネタイズの仕方も変わってきている。従来の動画クリエーターは、クライアントから案件を受けなければ、大きな収入は望めなかった。しかし今は、個人がSNS上で作品を発表することで、利益を得られる時代を迎えている。SNS時代の映像の作り手に向けて、上田さんは次のようにアドバイスする。

「たとえば、TikTokで縦型映画に特化したアカウント運営をするとしたら、アカウントの特色、自分の十八番を明確にして、勝負に出るのが良いと思います。たとえば、このアカウントを見に行けば恋愛ドラマが見れる、ホラー映画が見れるといった状況を作り出すことです」

中島さんは、企画やネタの重要性を強調する。

「動画のクオリティーよりも、そもそもの企画自体が面白ければ、周りの誰かに紹介したくなります。面白い切り口をどれだけ探し出せるか、という時代になっていくのではないでしょうか」

上田さんも、アイデアが重要という点に関して次のように続ける。

「1つの小さなアイデアを100にふくらませる部分は、生成AIの役割になっていくような気がしています。ゼロからイチを想像するという、人間にしかできない部分で力を発揮することが、より重要になってくるのではないでしょうか」

■映画やテレビドラマの手法を若者に引き継いでいけるか

スマートフォンとSNSを活用して、どんな人でも動画クリエーターになれる時代。関さんは、昨今の動画メディアの発展について次のように捉えているという。

「新しい動画メディアや、新たな映像制作のあり方が、自分が想定していなかったようなところから突如現れてくる状況が、面白いですよね。若手の縦型ショート動画クリエーターたちの作品を数多く見ていて、色、情報、表現、動画編集テクニックなど、さまざまな要素が短い尺の間に、おもちゃ箱のように詰まっているのが、とても楽しいと思っています。頑張れば誰でも、新たな動画表現にチャレンジできるようになっているんです」

関さんが述べた縦型動画独特の表現について、上田さんは次のように続ける。

「コンテンツの密度が高い、いわば足し算の表現が多くなってきている印象もあります。しかし逆に引き算、間合いで見せるなど、劇場映画やテレビドラマで使われる手法を、今後いかにTikTokなどに持ち込んで、若者にも引き継いでいけるか。このような課題も、同時に考えなくてはならないと思う部分もあります。動画コンテンツや表現方法を通じて、視聴者が飽きない工夫も、これからの映像クリエーターには必要ではないでしょうか。私は、新たに登場したメディアやテクノロジーにどんどんチャレンジしていきたいと考えています。SNSの投稿者の皆さんに『負けないぞ!』という気持ちで、これからも挑戦を続けていきたいです」

縦型動画という新しい動画フォーマットが生まれたことで、動画の視聴習慣は変化した。それに合わせて新しい表現手段やビジネス手法を模索することで、クリエーターにとっての新しい道が拓かれるのかもしれない。