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“コンビニで買う靴下”が異例のヒット 手掛けたデザイナーが狙った「知らぬ間に環境に配慮」

2022年9月26日 21:10
“コンビニで買う靴下”が異例のヒット 手掛けたデザイナーが狙った「知らぬ間に環境に配慮」
コンビニの陳列棚に並ぶ『ファミマソックス』
これまでの商品とは違うデザインが話題を呼び、売り上げ総数が750万足突破(8月末時点)するほどのヒットとなっている『ファミマソックス』。生みの親であるファッションデザイナーの落合宏理さん(45)を取材すると、24時間好きなときに購入できる便利さを生かしながらも、ファッション業界で問題視されている大量生産・大量消費という課題解決にも向き合っていました。

落合さんは、ファッションデザイナーとして2007年に自らのブランド『FACETASM(ファセッタズム)』を設立。これまでは、このブランドを“デザインを好きでいてくれるファンに向けて”やってきたそうで、「デザイナーとしてはめちゃくちゃエゴなんですけど、今つくりたいと思うものを創造しています。エモーショナルな部分なので、見たことのない新しい物を常に作り上げています」と説明しました。

■リオ五輪がファッションデザイナーとしての“転機”に

デザイン性が高く評価され、2016年にはリオ五輪の閉会式で行われた、東京の魅力をアピールする『フラッグハングオーバーセレモニー』の衣装デザインを手がけることに。この経験が、ファッションデザイナーとしての転機になったといいます。「僕はこれまで自分のブランドで、すごく小さい世界で、やりたいことを表現してきたんですが、世界の何億人という人たちに見ていただく経験をして、大勢の人たちに自分が創造したものを見せる・伝えるということも、ファッションデザイナーとして重要だと考えたんです」と、デザイン制作に対する意識が変化したことを明かしました。

■「知らぬ間に環境に配慮」 コンビニでサステナブルを狙う

そんな落合さんのもとに舞い込んできたのが、国内約1万6600の店舗を持つ『ファミリーマート』からのオファー。“コンビニでファッションを楽しむライフスタイル”を届けるという『コンビニエンスウェア』のデザインを依頼されました。落合さんは「このチェーンだけで、年間利用者数は50億人。その中で自分が創造して表現するということは、やはり規模感が衣料品店とは全く違うので、ファッションデザイナーとして、ファッション業界の問題や新しいファッションのライフスタイルを作っていきたいと思いました」と新たな挑戦を決意したそうです。

しかし、これまでとは違う“コンビニならでの課題”に直面しました。コンビニで売られている衣料品は、急な出張や大雨などの緊急時に購入されることが多く、中には“使用したら捨ててしまう”消費者もいたといいます。ファッション業界で大量生産・大量消費が問題視されている今、その課題を乗り越える必要がありました。「僕ら作り手がヒステリックに環境配慮を伝えても、コンビニを利用する50億人がそれを理解するのは非常に難しいのでは、と思ったんです。そこで意識したことは“捨てさせないようにする”ということでした。当たり前のことですけど、デザインや品質などにしっかりこだわれば、緊急時に買ったとしても、愛着をもって使い続けてくれる。“知らぬ間に環境に配慮してたんだな”っていうものになれば」と方向性を決めました。

■実はエコだった! デザインだけじゃない『ファミマソックス』

そうして落合さんたちが初めて手がけたのが、企業ロゴの緑と青をあしらった靴下でした。「企業ロゴってデザイン性がすごく出るんです。コンビニって誰もが利用したことがあるので、なじみのあるロゴって愛着がわきやすい」という狙いがありました。また、破れないように補強糸を使用し耐久性を高めたり、防菌防臭加工を施したりするなど、長く使ってもらえるようにしたといいます。

さらに落合さんが目をつけたのは商品のパッケージ。コンビニは24時間営業していることから、利用客が商品に手で触れる機会が多い上に、ホコリや日差しなどの影響を受けやすいため、商品はフルパッケージ(完全に包装)するのがセオリーだといいます。そこで、多くの人が当たり前のように捨ててしまうそのパッケージにチャックを取り付けることで、小物入れなどに代用できるようにも考慮したといいます。こうした取り組みによって、コンビニの衣料品の立ち位置が、緊急需要から“目的買い”に変化したと感じたそうです。ファミリーマートの担当者によると、売り上げ総数750万足突破は、コンビニで販売される衣料品としては前例がなく、異例のヒットだといいます。

コンビニウェアからコレクションまで、ファッション業界で幅広く活動する落合さん。「もちろん今までやってきたことがゴールではないので、どうやっていけば世の中に対していいのかっていうのを常に考えています。24時間好きなときにコンビニで衣料を買えるということは生活が豊かになる。しかし衣料はどうしても大量生産・大量消費になってしまうので、どれだけ環境に配慮できるかファッションデザイナーとしてこれからも意識していきます」と展望を語りました。