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宇宙は日本の産業力を発揮できる場【SENSORS】

2023年10月1日 15:15
宇宙は日本の産業力を発揮できる場【SENSORS】

「宇宙ビジネス」や「宇宙産業」という言葉を耳にする機会が、近年大幅に増えている。しかし、私たちの日常生活と宇宙とは、まだ遠くかけ離れたものだと感じる人も多いのではないだろうか。

今回は、宇宙をもっと身近にしたいと考えるエキスパート3人に、日本テレビのアナウンス部と宇宙ビジネス事務局とを兼務する宇宙アナウンサー浦野モモが話を聞いた。宇宙に関連する事業に携わる中で彼らが感じてきた、宇宙の可能性とは。

■国境のない宇宙で、日本ができること

ソニーグループ株式会社宇宙エンタテインメント推進室 室長の中西吉洋さんは、宇宙ビジネスに関心を持つ社員を率い、2023年1月にソニーのカメラを搭載した人工衛星『EYE』を打ち上げた。このプロジェクトは、誰もが宇宙や地球の写真を撮れるようになったら面白いはずだという、社員たちの想いから始まった。

「テレビ、スマートフォン、プレーステーションなど、さまざまな製品を作っているメンバーが衛星作りに関わりました。ソニーグループにはアーティストもいるので、宇宙から撮影した素材を使って、新たな作品を生み出すのも面白いのではないかと話しています」

ソニーの人工衛星プロジェクトには、株式会社天地人 取締役COOでJAXA 主任研究開発員の百束泰俊(ひゃくそく・やすとし)さんと、弁護士で一般社団法人スペースポートジャパン設立理事の新谷美保子さんの協力もあったという。

「百束さんからは人工衛星を安全に開発するためのアドバイスなどをいただき、新谷先生には契約や法律面でご協力いただきました。衛星を作るだけじゃなく、必要な準備や未知の法律を知るのも、すごく面白いです」

今や多くの人びとの関心を集める宇宙ビジネス。しかし、10年前にはほとんど仲間がいなかったと、新谷さんは当時を振り返る。2011年に弁護士事務所からの派遣でアメリカへ留学したときに、アメリカの宇宙ビジネスが日本とは比較にならないほど進んでいると知り、衝撃を受けたという。

「アメリカでは、すでにイーロン・マスク氏の会社(スペースX社)が創立10周年を迎えるころで、当然のように民間企業が宇宙事業を展開していて、ルールも整いつつありました。一方、日本にはスペースローヤー(宇宙を専門とする法律家)もおらず、宇宙事業に対する国家予算は現在の半分程度。国益を損なう可能性さえあると知ったんです」

新谷さんはまた、宇宙には国境がないため、世界規模での競争が起きるのではないかと懸念した。日本の産業力を守り、活かすことが重要であると考え、事務所の理解を得て宇宙を法律面でサポートする活動を始めた。当時は1人だったが、年々仲間が増え、現在では大規模なチームとなっているそうだ。

■宇宙研究を活かす、柔軟な制度が整うJAXAの例

株式会社天地人の創業前、長年JAXAで地球観測衛星の開発を担当してきた百束さんは、日常生活に"宇宙"を活用する取り組みを進めている。自身が開発に関わった衛星のデータを活用する会社を立ち上げ、宇宙(天)のデータと地上のデータをかけ合わせるという意味で「天地人」と名づけた。

「衛星のデータを活用する仕事がしたいと考えていたときに、JAXA内で起業ができる『JAXAベンチャー』という制度が始まり会社を立ち上げました。最初は、自分の衛星のデータを使いたいという思いが強くてビジネスとしてうまくいかない時期もありました。試行錯誤や仲間との議論をくり返す中で、ビジネスをする以上は地上の人の役に立ち、誰かの課題を解決することが最も大切だと考えるようになりました」

JAXAは、宇宙への知識や技術を広く活かすための起業や出向などの制度を整えている。新谷さんは、そのようなJAXAの制度を法的側面から支援している。

「JAXAの中には、ビジネスに活用できそうな知的財産がたくさん眠っています。それらを活用してJAXAの社員が起業されたり、そこに投資される方がいるときに、私がサポートすることもあります」

これらの制度は、宇宙研究の成果を最大化するために不可欠であると、百束さんは考える。

「研究って、別の何かとかけ合わさると、成果が10倍にも100倍にもなるんです。JAXAには、ビジネス的な価値があるものはもちろん、お金にはならなくても、世の中をものすごく良くする技術がまだまだ眠っていると思います」

■日本の産業力を生かす「宇宙ビッグデータ米」

宇宙データと地上データをかけあわせた身近な事例として、天地人では「宇宙ビッグデータ米」という米作りに取り組んでいる。人工衛星のデータから最新の気候条件などを分析し、作りたい品種ごとに最もおいしい米が作れると予測される場所を選び出すという。

「人工衛星って、僕らが知らない間も、過去からずっと健気に観測しているんですよね。そのデータを束ねて分析して、地上のデータとかけ合わせて、どこでおいしいお米が作れるのかを探します。地上には、今までおいしいお米が取れた場所や天候の影響による病気などのデータがたくさんあるので、それらと組み合わせてベストな場所を予測しています」

国境のない宇宙で、日本の産業力を発揮するチャンスは、すでに目の前に広がっている。宇宙がもっと身近になり、より多くの人が宇宙産業に携わることで、日本が世界をリードする未来がやってくるかもしれない。