サウナが地域経済を救う?
全国に約2万4000以上ある温浴施設の中で、注目されているのがサウナだ。「天然水」や「景色」など、そこでしか味わえない体験が人気を呼んでいるサウナ。新たに行政サービスと一体化したサウナも登場している。
■サウナの“聖地”に人が集まるワケ
静岡駅から車で約15分。交通の便がいいとはいえない場所に、全国から人が集まる「聖地」といわれるサウナがある。「サウナしきじ」。日中でも駐車場は満杯で、混雑を防ぐため1時間近く入場待ちになることもあるという。
客の目当てはここでしか体験できない水風呂だ。通常、サウナの水風呂は飲むことができない。水道水を循環させているため、塩素を入れて殺菌して水を清潔に保っているからだ。そのため一般的にサウナの水風呂からは独特の塩素のにおいがする。
しかし、「しきじ」の水風呂に使われる水は地下からくみ上げられる大量の天然水を掛け流している。そのため、直接飲むことができる。実際、飲んでみると、軟水のミネラルウオーターのように丸みがある。塩素のにおいもせず、より快適に入浴できると評判になり全国から人が集まるようになったという。
■温浴施設は1兆円規模の市場
厚生労働省が発表している「衛生行政報告例」によると、2019年には、公衆浴場といわれるサウナや銭湯などを含む温浴施設数は、全国で2万4531あるといわれている。この数から推計すると、温浴施設の市場規模は約1兆1000億円と試算されている。
設備や建物の老朽化などから廃業する施設があるため、施設数こそ減少傾向にあるが、近年では施設をリノベーションして、新たな温浴施設として新規出店するケースも多い。
サウナの研究を行っている日本サウナ総研が2020年に行った調査によると、年に1回以上サウナに入る人は推計2583万人。中でも月に4回以上サウナに入る人は、推計339万人いるといわれている。これまで男性のイメージが強かったサウナだが、最近は男性も女性も、全世代で楽しめるレジャーとして、広がりをみせていて、そこに目を付けた自治体がある。
■女性や家族に人気のサウナとは
2021年12月、埼玉県和光市にオープンした複合施設「わぴあ」は、和光市と民間企業が共同で出資してできた施設だ。
児童センターや保健センターなど、地域の健康福祉や子育てに関する施設などに加えて、注目されるのがサウナつきのスーパー銭湯「おふろの王様」。市民からの要望と運営する民間企業の出店計画が重なったことで実現したという。スーパー銭湯は、子供が遊べる児童センターや認定こども園に隣接する場所にあり、家族連れや女性の割合も高いという。
この事業の行政の担当者・和光市役所企画部資産戦略課の岡田直晃さんによると、「施設で働くアルバイトや職員などの雇用も創出しているため、地域経済にとっては、非常にメリットが多い。サウナの経済効果にも期待が高い」と話す。
■ここでしか体験できないサウナ
庄内平野の水田に浮かぶ建物。山形県鶴岡市にあるホテル「スイデンテラス」に2021年4月サウナが新設された。サウナ室からも外の風景を見ることができるのが人気の秘密で、外には田んぼの風景が広がる。
また、千葉県の幕張海浜公園内にある「JFA夢フィールド 幕張温泉湯楽の里」は2020年7月にオープンしたスーパー銭湯で、休日には200台ある無料駐車場が満車になるほど人気だ。東京湾に面しているため、サウナの後に露天スペースで一面の海を見て波の音を聞きながらくつろげる。夕日が沈む瞬間には、海がオレンジ色になり、地球の大きさを全身で体感できるのも魅力のひとつだ。
「ここでしか味わえない体験」を提供できるレジャーとして、地域経済をも活性化させる存在になりつつあるサウナは、今も進化をし続けている。