性教育に特化したWEBサイトがなぜ必要?
性教育に特化したイラスト素材のWEBサイト「性教育いらすと」。オープンからまもなく1か月がたち、成果と課題が見えてきました。
■イラストレーターが立ち上げた「性教育いらすと」
先月18日、「生理ナプキンの捨て方」や「コンドームのつけ方」といったイラストを掲載したWEBサイトがオープンしました。「性教育いらすと」というこのWEBサイト。イラストおよそ500点は、一定の条件のもと、全て無料でダウンロードし、使用できます。
「性教育いらすと」を立ち上げたのは、イラストレーターの佐藤ちとさん(24)。学生時代から性教育に関心を持ち、講演会で使用する資料にイラストを描くなどの活動をしていました。
そのなかで気づいたのが、どのイベントでも「コンドーム」や「生理用品」など同じようなイラストが求められていること。
「性教育に特化している無料イラスト素材集サイトがあったらいいな!」
そう思い立った佐藤さんは、WEBサイトを立ち上げる資金を集めるため、去年3月にクラウドファンディングを実施。すると、開始からわずか8時間で目標としていた38万円を突破したのです。およそ1か月のクラウドファンディングが終了するころには、281人が佐藤さんの取り組みを支援し、当初の目標の463%となる176万円を集めました。
■性行為を知らない子どもにも、イラストがあれば伝わる
産婦人科医の高橋幸子先生は、佐藤さんのクラウドファンディングを支援したうちの1人です。「性教育を学ぶことは子どもの権利」という考えのもと、診療のかたわらで性教育に精力的に取り組んでいます。
小中学校で外部講師として授業をするときに感じていたのが、言葉で説明する難しさです。小中学校の学習指導要領では、性行為を教えないと定められています。いわゆる「はどめ規定」です。そのため、性行為を知らない子どもたちにもわかるように「性感染症のリスク」や「正しいコンドームのつけ方」を教えなくてはなりません。そのような場面では、「目で見てぱっとわかるイラストが重要」だと考えています。
今までは、講師が自費でイラストレーターに発注する場合も多かったといいますが、「性教育のためのイラストが無料で使えることで、性教育に取り組む裾野が広がる」と期待しています。
■WEBサイトを眺めるだけでも性教育になる
さらに、高橋先生は「性教育いらすと」のWEBサイトを見ているだけでも有意義だと話します。
「性教育いらすと」のWEBサイトを開くと、38ものカテゴリーからイラストを探せるようになっています。そのなかには、「自己肯定感」「障がいのある人」といった、一見性教育とは関係ないように思えるカテゴリーも。
こうした幅広い内容が性教育に含まれるとする「包括的性教育」の考え方は、国連からも推奨されていますが、日本ではまだ一般的ではありません。高橋先生は、「性教育いらすと」のカテゴリーを見れば「こういうのが性教育なんだ」とわかるといい、「性教育をしたいけれど、何から始めたら良いかわからない」と悩む大人たちの助けになると見込んでいます。
■社会貢献のためならタダ働きも仕方ない?
WEBサイトをオープンして1か月。佐藤さんは今もイラストを描き続けています。出産や育児などのイラストがまだまだ足りないと、日々イラストを描き加えていますが、その作業は全てボランティアです。
WEBサイトの運営や、正しいイラストを描くための監修に関わっているのも、ほとんどは有志。WEBサイト内の広告をはじめとする収入源は設けていますが、十分な報酬を払うには足りません。
それでも無料にしたのは、「性教育の活動をしている方は若い人の割合も高く、有料のイラスト素材を使うことができないことが多い」「正しい性知識を広めるためにイラストを使うことに対してハードルを持ってほしくない」という思いからです。
「自分も他人も大事な存在なんだ」と気づくきっかけとなる性教育。取り組みを広め、深めるためには、ボランティア精神に任せるのではなく、政治やビジネスの世界からも力強い後押しが求められています。