株価伸び悩む中、新NISA2年目で家計の資産形成どうする? 米投資信託協会CEOに聞く“日本市場への期待”と“資産形成の考え方”

新NISA制度が始まって2年目。投資を始める人も増えたが、トランプ政権の政策の不透明さもあり、日経平均株価は伸び悩む。こうした中、欧米やアジアなどから200以上の資産運用会社が加盟する「米投資信託協会」のエリック・パンCEOに、海外の投資家から見た日本市場や、家計の資産形成ついての考え方を聞いた。
■“天井に近い”米金融市場と、まだ“割安”な日本企業への投資
――岸田政権のもとで新NISAが始まってから2年目です。個人で投資を始める人も増え、米国の株価などに連動した投資信託を購入する動きも活発です。日本人の投資への向き合い方に変化を感じますか?
「まだ始まったばかりだと思いますが、新NISAがこれほど上手く行っていることは素晴らしいと思います。投資をより魅力的なものにするために、日本政府にできることはまだありますが、新NISAで起きたことを政府は誇ってよいと思います」
――ただ今年、トランプ政権の予測不可能さが影響して、日本の株価も伸び悩んでいます。現在の日本市場と日本企業の成長期待については、どう見ていますか?
「米国株はここ数年、非常に好調でしたが、ここ数日の動きを見ると、米(金融)市場は、すでに天井に近い状態にあり、調整局面を迎えている可能性があります。一方で、日本企業は米国企業と比較すると非常に割安に見えます。つまり、投資の機会があるということです。もし私が日本の投資家なら、米国の企業だけでなく、日本の企業にも注目するでしょう」
―― 一方で、円安の影響もあり、海外企業が日本の大企業を買収しようとする動きも目立ってきました。セブン&アイ・ホールディングスへの買収提案などもそうです。アメリカから見て、日本の企業は買収という面でも投資価値があるのでしょうか?我々はその動きをポジティブに捉えるべきでしょうか。
「私はポジティブな動きだと強く思います。多くの米国企業が今、多くのキャッシュを保有しています。つまり買収や投資を行う力があるということです。そして日本では、経済状態が変化し、日本企業が米国企業と比べても、非常に割安に見えるようになったと思います。日本企業に多くの関心が寄せられることは驚くことではありません。日本ではコーポレート・ガバナンスの面でも非常に有益な変化が起こっており、これもまた、米国の投資家が日本に投資し、大きな成果を上げられると感じる要因となっています」
――現在の円安も、日本企業への買収や投資が拡大している原因でしょうか?
「為替レートは(買収や投資の)コストに影響しますが、長期的な投資を考える場合には、為替レートが判断を左右することはないと思います。日本の家計は多くの貯蓄を抱えていますし、非常に健全な消費者の基盤があり、魅力的な市場です。世界の他の市場と比べれば、日本の市場は非常に優れていると思います」
――長期的に見て、日本への投資は、企業買収(M&A)のような大きなものも含めて、引き続き行われていくでしょうか?
「間違いなくそう思います。これは一時的な傾向ではなく、何年も続くものでしょう。政府の適切な政策、コーポレート・ガバナンスの変化、日本経済の安定、これらが組み合わさることで、日本は今後も注目され続けるでしょう」
■海外投資家の日本市場への期待は依然として高い
トランプ政権の政策の不確実性や、世界経済の先行きへの不安から日本の株価が伸び悩む一方で、パン氏が語るように、日本市場への関心は依然として高い。
3月上旬、都内で大手証券会社が主催した海外の機関投資家を集めた大規模なイベントを取材すると、海外投資家からは、「(トランプ政権の政策による)リスクはあるが、日本はアメリカの友好国で、トヨタ自動車が現地で車を生産するなどしている。他国に比べても(対米関係で)良い位置にいる」「日本経済は依然として良好で、日本は投資先としては割安な市場だ」などと前向きな声が相次いでいた。日本企業のコーポレートガバナンス(企業統治)の改善を評価する指摘も多く、「日本の企業の経営陣は(株主からの)意見を聞くことに非常に前向きで、ポジティブな印象を受けた」と話す海外投資家もいた。
■資産形成に投資も含めた多様な選択肢を 「若い人たちは自分の将来の経済状況について考えるべき」
再びパン氏のインタビューに戻ろう。後半では、日本の家計の資産形成のあり方について聞いた。
――デフレ経済ではなくなり、日銀も利上げを続けています。投資も含め、多様な形で資産形成をする時代になっていると感じますが、アメリカのように家計が積極的に投資を活用して資産形成するには、何が必要でしょうか?
「まず第一歩は、(資産を増やそうという)意欲を持つことです。次に、(投資家には)選択肢がなければいけません。良い投資先を選ぶ能力も必要です。例えば、あなたが日本は今後、低成長が続くとか、デフレ経済に逆戻りすることを心配しているとします。それでも、世界には(日本以外にも)他の投資先がある、ということです。日本で資産運用を行う金融機関が、投資家教育を行い、さまざまな選択肢があることを示すことも必要です」
「政府も(多様な資産形成を)後押しすることができます。政府が『こうします』と発信するだけでも、企業が同じ方向で考えるようになるため、非常に強力な推進力になります。岸田前首相の時代に始まった『資産運用立国』政策の、すでに表れている効果でもあると思います」
――日本は世界的に見ても少子高齢化が進んでいます。こうした中、例えば老後への不安から収入を貯蓄に回して消費を抑える傾向や、元本割れを警戒して投資を怖がり、貯蓄を選択するという考えも根強くあると思います。アメリカでは、高齢者の資産運用に課題はありますか?そこから日本が学べる教訓はあるでしょうか。
「その現象(少子高齢化)は、あらゆる市場で共通していることだと思います。あえて高齢者に焦点を当てるのではなく、20代や30代の人々がどう考えているのかに注目するべきでしょう。ここで問題になるのは、若い人たちがどのように行動しているのか?ということです。長期的な成長について考えているのかどうか、ここが日本と米国で考え方が異なる点だと思います。米国では20代や30代の多くの人々が、将来、政府が自分たちのために資金を蓄えてくれるとは思っていません。企業が自分たちを守ってくれるとも思っていません。自分たちで、経済的な安全を確保する責任を負わなければならず、その結果、長期的な資産形成を考えるのに多くの時間を費やします。例えばアメリカの大学(の学費)は非常に高額なので、親は、子供が18歳になった時に大学に行かせられるよう、十分なお金を貯めるかを考えるのです」
――日米では、考え方に大きな違いがあるようにも思えます。
「こうした考え方は、どの社会でも共有できるものだと私は思います。もし(資産形成の面での)安心が欲しいのであれば、そのために自分でやるべきことがあると考えましょう、ということです。日本の場合、若い人たちは、自分の将来の経済状況について考えるべきです。会社や政府にすべてを任せられると考えるべきではありません」
「日本人は、アメリカ人よりもずっと優れた貯蓄家です。しかし、問題は、彼らがそのお金を何かに使っているのか?ということです。もし日本の家計の貯蓄力を活用して、その貯蓄を企業の資金調達や成長投資に活用することができれば、それは(経済成長のために)非常に強力な組み合わせとなるでしょう」
(聞き手・経済部 渡邊翔)