そごう・西武 ストライキ問題 「百貨店で働き続けたい」労組の要求
百貨店のストライキ。実に61年ぶりのこととなる。そごう・西武の労組は31日、西武池袋本店で終日全面ストライキを行う。ファンドに売却される前に、従業員の雇用の維持を約束してほしいためだ。配置換えやグループ企業への転職でなく、「百貨店に就職したのだから百貨店で働き続けたい」という。
そごう・西武は4年連続の赤字でかつ3000億円の借金を抱える。「親会社の売却後の判断」や「そごう・西武のストの決断」をどう見るべきか。
──そごう・西武の労働組合が31日にストライキに踏み切ることを決めました。百貨店のストライキは61年ぶりということですが、なぜこんなにこじれているのでしょうか?
【4年連続の赤字】
「そごう・西武」の状況を見てみますと、そごう・西武はセブン&アイ・ホールディングスの100%子会社です。
セブン&アイといえば、セブンイレブン、イトーヨーカドー、デニーズなどを抱える巨大グループです。その中で、「そごう・西武」の経営状況ですが、4年連続の赤字。さらに3000億円の借金があります。ネットショッピングが拡大する中で、百貨店業界全体、ずっと厳しい経営環境となっていて、中でも、そごう・西武は苦戦しています。
こうした中、親会社のセブン&アイ自身も、株主から「なぜ赤字の百貨店を抱えているんだ」「売却すべきだ」と圧力をかけられ、別のファンドに売却することを決めました。
──組合は売却に反対してストライキをするのですか?
【百貨店で働き続けたい】
組合も、経営が立ちゆかないので売却されること自体に反対しているわけではないとしています。ストに踏み切った理由は、「売却前に経営側にきちんと今後の事業について説明してもらうこと」と「雇用の維持」です。
そごう・西武の売却方針は去年11月に公表されましたが、そごう・西武の従業員には説明がされないままで来ました。いよいよ「もう売却される」となっても、経営側から「売却されたらそごう・西武の売り場はどうなるのか?」「雇用はどのように維持されるのか?」について、「詳しい説明」がされないとして、組合は7月9日からストについて投票を始め、25日に「ストライキ権」の確立を発表しました。
組合がストに向けて動き出したことで、やっと、セブン&アイHDも労組との協議を始め、社長も含めた会合ももたれるようになりました。
労組がこだわったのは「今後そごう・西武の事業がどうなるのか」と「雇用の維持」についての説明です。やはり従業員としては、この先、自分の仕事はどうなるのだろうか? は大きな心配事ですので、「雇用の維持を約束してほしい」と求めて来ました。
一方で、そごう・西武は赤字なので、立て直すためにはどうするか? 集客力のあるヨドバシが西武池袋本店の前面に入ります。ということは、そごう・西武の売り場面積が減る。つまり、そごう・西武で人が余る。
セブン側は、余剰人員は、一義的には新たな株主のもとで、そごう・西武による新規事業や他店舗への配置転換等で維持されるよう新たな株主に働きかけるとしていて、さらにもしそれでも余ってしまう場合には、セブン&アイグループが人員を受け入れるとしています。
しかし組合側は、これまで「百貨店に就職したのだから百貨店で働き続けられるようにしてほしい」などと求めて来ました。
心情は理解できるところですが、しかし、利益が出ていない中で、全員このまま残って、どのように給与を払っていくのか?
セブン&アイ側は、そごう・西武を買収するファンドからも「百貨店事業の潜在的価値を最大限に引き出すプランを提示されている」として、それこそが雇用の維持と事業の継続につながると説明しています。
しかし、ストライキを決めるところまでこじれてしまったのは、経営側から従業員への誠実な説明の開始が遅かったことも要因の一つです。これは、そごう・西武の従業員がどうなるかに関わる決定をしているのがセブン&アイHDでありながら、労働組合に向き合うのはセブンではなく「そごう・西武の経営側」だという関係から、直接、話し合いの場が持たれてこなかったことによります。
一方で、労組が要求している雇用の維持ですが、こうした経営再建のための人員整理は、そごう・西武に限ったことでなく、日本の産業が再生していくために今後もあちこちで起こる見通しです。事業を見直して人が余ってしまうのであれば、仕事がない人まで雇用して、みんなで低い給料になるよりも、グループ内で人が必要な職場に配置転換したり、転職をチャンスと捉えられる人には退職金を上乗せして移ってもらったりした方が再建が進むというのがあります。
これまで日本的雇用慣行で、企業はどこまでも雇用を守るというのが美徳とされてきました。しかし、今やデジタル化や脱炭素で産業や事業が大きく変わり、急速に産業、事業、企業の見直しが起きています。つまり稼げる事業、稼げない事業、必要な人材、今までの場所では活躍できない人材という選別が進む中で、人材の流動化は避けられません。
日本企業の競争力を高める、つまり稼いでいけるようにするために、今後、もっとこういったケースが増えてくるかもしれません。
そうした中でも、企業側は、企業の大事な宝である従業員を最後まで大切にしなければ、企業の社会的信用度が落ちることになります。