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住宅ローン「変動」「固定」どっちが得?大手銀行も17年ぶり引き上げで家計負担増…物件価格は下がる?

2024年10月5日 7:00
住宅ローン「変動」「固定」どっちが得?大手銀行も17年ぶり引き上げで家計負担増…物件価格は下がる?

大手銀行各社は、10月からの変動型の住宅ローンの基準金利を引き上げた。既に借り入れをしている人は家計の負担が増える一方、新規で借り入れする人には、事実上、金利を据え置く銀行も。これは、ネット銀行との競争が激化していることが背景にある。そして「金利が上昇すると下がる」と言われている不動産価格だが、首都圏の新規分譲マンションの価格は引き続き上昇傾向だ。

住宅ローンの見通しは?変動型と固定型どっちがお得?物件価格の今後はどのように変化していくのか?

■大手行17年ぶり金利引き上げも 新規客には対応分かれる

三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行のメガバンク3行は、10月から変動型住宅ローンの基準金利を一斉に0.15%引き上げた。この基準金利の引き上げは17年ぶりで、既存の借り入れをしている人向けには、基準金利を2.625%に設定した。

これは、日銀が7月に政策金利を引き上げたことを受けたもので、多くの家庭で家計の負担が増えることになる。

大手銀行は通常、変動金利の基準金利を半年に一度、4月と10月に見直すことが多く、今回の金利引き上げが返済に適用されるのは来年の1月以降になる。変動型の住宅ローンで実際に適用される金利は基準金利から優遇される幅(優遇幅)を引いたもので決まる。優遇幅が大きければ大きいほど金利がディスカウントされる仕組みだ。しかし、今回、新規で借り入れる人に適用される「最優遇金利」については銀行ごとに戦略が分かれる結果になった。

三菱UFJ銀行は、新規顧客の優遇幅を拡大し、基準金利の上昇分を抑え、実際に適用する最優遇金利を9月と同じ水準に据え置いた。みずほ銀行は10月からの新規顧客に対して基準金利を引き上げず、最優遇金利も変えなかった。

こうして対応が分かれた背景には、ネット銀行の存在が影響している。ネット銀行は、店舗に訪れずにインターネットでローン手続きを行えるなどコストを抑えることで、一般の銀行よりも低い金利を設定し、シェアを拡大。その結果、メガバンクとの競争を激化させた。

■今年4月の最優遇金利と10月の最優遇金利を比べてみると

【4月 メガバンクとネット銀行の最優遇金利(変動型)】
◎三菱UFJ銀行⇒0.345%
◎みずほ銀行⇒0.375%
◎三井住友銀行⇒0.475%
◎SBI新生銀行⇒0.290%
◎auじぶん銀行⇒0.319%
◎PayPay銀行⇒0.315%

【10月 メガバンクとネット銀行の最優遇金利(変動型)】
◎三菱UFJ銀行⇒0.345%(4月比±0)
◎みずほ銀行⇒0.375%(4月比±0)
◎三井住友銀行⇒0.625%(4月比+0.15)
◎SBI新生銀行⇒0.420%(4月比+0.13)
◎auじぶん銀行⇒0.479%(4月比+0.16)
◎PayPay銀行⇒0.465%(4月比+0.15)
(※モゲチェック調べ)

大手銀行は金利復活を機に、新規顧客を取り戻しに行く戦略に出た。また、金利だけではなく、ペアローンを組む人用に「夫婦連生団信」と呼ばれる保険をつけるなど、新規顧客獲得にむけて競争が激化している。

*連生団信=どちらかに万が一のことがあった場合、両方のローン残高がゼロになる団体信用生命保険

■家計の負担増はどのくらいか

一方、既に住宅ローンを借りている人にとって、どの程度、家計の負担が増すのか。

大手銀行のウェブサイトにあるシミュレーションによると、4000万円の住宅ローンを35年間で借りた場合、毎月の支払額を均等にしてボーナス払いを考慮しないとして、毎月2666円、年間で3万1992円増え、返済総額は111万9720円増えるとされている。

しかし、多くの銀行では、金利が上がっても5年間は返済月額が変わらない「5年ルール」というものがある。ただ、ローンの総額が減るわけではなく、毎月同じ額を支払う場合、そのうち金利の支払い部分が増えるため、最終的な総返済額は増えることになる。

■変動と固定どちらが得?石破新政権で利上げは先行き不透明

それでは今後、金利はどこまで上昇するのか。

まず、住宅ローン金利には、購入時の金利から一定期間変わらない「固定型」と、返済中に定期的に金利が変わる「変動型」があり、現在、多くの利用者が選んでいるのは「変動型」だ。

この変動型は日銀の政策金利に事実上、連動するため、今の状況では固定型よりも金利が低い。ただ、日銀は3月にマイナス金利を解除し、7月には追加の利上げを実施するなど、金融政策の正常化に向けた動きを見せている。

今後も利上げが行われ、変動型の住宅ローン金利も徐々に上昇する可能性があるものの、どのようなペースで進んでいくかは不透明だ。就任したばかりの石破総理も「追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言していて、追加利上げに慎重な姿勢を示している。

それでもなお、日銀内からは年内の追加利上げの可能性は残っているという声も聞かれ、先行きは非常に不確実だ。そのため、変動型か固定型かで迷う方も多いだろう。しかし、現時点では「変動型がまだお得」という意見が大勢を占めている。

住宅ローンアナリストの塩澤崇氏によれば、日銀の政策金利が1.75%に達すると、固定金利と変動金利が逆転すると分析されている。現在の政策金利は0.25%であり、ここから6回の利上げを想定して初めて1.75%に届く。しかし、今の国内の経済状況では、そのような大幅な利上げは見込まれにくいと考えられている。また、メガバンクの話では、日銀の利上げ後も住宅ローン利用者の8割以上が変動型金利を選んでいるということだ。

■金利上昇で不動産価格に変化は?

一方で、金利が上昇する中、不動産価格の動向も注目されている。
不動産経済研究所によれば、今年8月の首都圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)で発売された新築マンションの平均価格は9532万円で、前年同月比32.5%の上昇を見せている。

実際に都内のモデルルームを訪れてみた。東京都板橋区に建設予定の地上26階建てのタワーマンションは、現在第2期の販売が進んでおり、価格が9800万円から1億2500万円と高額ながらも堅調な売れ行きを見せているという。

都心は1億円を超えても売れる。住友不動産の営業部の渡邊健太郎主任は「駅に近いマンションは非常に引き合いが多く、用地取得や建築費の上昇で供給戸数は減少しているが、都心のニーズは高く、価格も上昇しています。利便性を求めるパワーカップルの需要が続いているため、供給が減少する中でも価格が下がる兆しは見えません」と話す。

一般的には、金利が上昇すると不動産価格は下がる傾向があるが、首都圏のマンションなどは、供給不足から引き続き強気の価格が続くと見られている。塩澤氏は「不動産と金利は密接に関連しており、金利が1%上昇すると不動産価格が20%下落するとも言われています。

ただし、都心の不動産は利便性と希少性が高いため、金利が段階的に上昇しても価格は高止まりする可能性があります。一方で、郊外の不動産は金利上昇による影響を受けやすく、価格が下落する可能性があります」と指摘している。

住宅ローンの金利や不動産価格の変動は、今後の経済情勢に大きく左右されるが、金利のある世界に戻ったいま、購入を検討している人にとっては慎重な計画が重要になってくる。