【解説】ダイハツ きょうから“新社長”体制も…トヨタ関係者「ダイハツは絶対に変われない」そのワケは?
車両の安全性を確認する認証試験で、不正を行っていたトヨタ自動車の完全子会社・ダイハツ工業。先月13日には、トヨタが奥平総一郎氏を社長の座から事実上“更迭”し、1日付で、トヨタから井上雅宏氏などを送り込む人事を発表した。文字通り1日から“新体制”となる。ダイハツ関係者からは“新しい風”への期待感を示す声も上がっているが、トヨタ関係者からは「ダイハツは絶対に変われない」との厳しい声も。そのワケは?
■ダイハツが国交省に提出した再発防止策…奥平前社長自ら“中身”を説明
ダイハツは先月9日、国土交通省に対し「再発防止策」を提出した。『風土改革』『経営改革』『モノづくり改革』の3つの誓いが明記され、不正の原因となった短期間での開発を見直し、開発スケジュールをこれまでの1.4倍に延長することなどを決めた。
提出後にはダイハツの奥平前社長が取材に応じ、「再発防止をしっかり実行し、正しい仕事ができる会社とさせていただきたい」などと強調した。
■先月13日のトヨタ・ダイハツの共同会見…豊田章男会長が「奥平前社長に“過去の清算”のすべてを押しつけた」
提出の翌週・先月13日に行われたのが、経営陣の刷新などが説明されたトヨタとダイハツの共同会見だった。
しかし肝心の再発防止策については、トヨタの佐藤社長が「ダイハツは、トヨタとともに、安全・安心を第一においたクルマづくりを徹底し、再発防止に取り組む」と述べるにとどまり、詳しい“中身”の説明はほとんどなかった。
これについてあるトヨタ関係者は、「本来この会見は、『再発防止策』の中身の具体的な説明と、『新体制』についての説明がセットで発信されるべきだった」と振り返る。
その上で、このトヨタ関係者は、「豊田会長が『この会見はダイハツが“新しい方向”に生まれ変わる日なのだから、再発防止策の説明などといった“過去の清算”の場にするのではなく、ダイハツの“未来”について話す場にした方が良い』と言ってきた。“過去の清算”を奥平氏1人に全て押し付けたのは会長だ」と明かし、豊田会長の“一強体制”を批判した。
■“新体制”で「再出発」するダイハツ…トヨタ関係者「ダイハツは絶対に変われない」
1日からダイハツの新たなトップには、トヨタ中南米本部の本部長だった井上雅宏氏が就任する。
あるダイハツ関係者は、「きょうから新体制といっても、新社長はトヨタ出身の人。ダイハツに元々いた人ならばすぐにでも具体的な改革を打ち出せるが、井上新社長は“これからの人”で、この先どうなっていくかはまだわからない。とにかく今は“新しい風”を期待するしかない」と、新体制への思いを語った。
しかし、あるトヨタ関係者は、「ダイハツは絶対に変われない。ダイハツは“親会社にモノが言えない”と言われているが、その親会社の我々でさえ、豊田会長にモノが言えない。そんな“独裁体制”では、ダイハツはおろかグループ全体も変われない」と話す。
一方、別のトヨタ関係者は、「奥平前社長(ダイハツ)と佐藤社長(トヨタ)は年齢が離れていたこともあり、十分なコミュケーションが取れなかった面もあっただろう。一方、井上新社長(ダイハツ)と佐藤社長(トヨタ)は年齢も近く、コミュニケーションがしやすくなると思う。先月13日の会見でも2人が向かい合い笑顔になるシーンが見られ、ここから本当の意味で“生まれ変わる”のだと実感した」と話す。
■残るは9車種…ダイハツの売り上げトップ「タント」の出荷再開がカギ
ダイハツは現在国内で27車種を販売していて、国交省からそのうちの18車種について出荷停止が解除されている。今月18日からは滋賀工場の稼働も再開させることとなり、これにより、大阪府池田市の本社工場以外の全ての工場で生産を再開させることになる。
ただ、ダイハツの中で売り上げトップを誇る軽乗用車「タント」など残る9車種が、いまだ国交省から出荷停止の指示を受けている。あるダイハツ関係者は、新体制が始まったとしても「軽乗用車の生産をさらに再開できなければ、経営は厳しいままだ」と指摘した。
ダイハツの井上新社長は今後のダイハツのあり方について、「4月に方針を説明する」としている。今後は、本来の主軸である軽自動車に注力する方針だ。さらにダイハツは1日、今月中に、全国に58ある販売会社に対し、メーカーとしての資金支援を始めるとも明らかにし、着々と「再出発」への道を進めている。
ただ、あるトヨタ関係者は、「会長に言われれば“誰であっても反対できない風土”が、グループ全体をダメにしている」と話す。「原点を見失っている」のは、現場なのだろうか、それともトップなのだろうか。