2020年 大きく変わる自動運転の世界
2019年4月、東京・池袋で乗用車が暴走し、12人が死傷する事故が発生。警視庁は、乗用車を運転していた当時87歳のドライバーが、ブレーキとアクセルを踏み間違えたことが事故の原因と断定した。
このような操作ミスによる事故を減らすため、自動車メーカーは、自動ブレーキ機能などを搭載した「安全運転サポート車」通称「サポカーS」を販売している。このサポカーSに搭載されている技術こそ「自動運転」の技術なのだ。
「自動運転」は誰が運転するのかによって2つの段階に分けられる。人間が運転するのか、システムが運転するのか。2020年は日本で運転する主体が変わる節目の年となる。自動運転は5つのレベルに分類することができる。
【レベル1】
運転する主体はドライバー。例えば「サポカー」のように、前方に障害物があると自動でブレーキがかかる機能や、前の車に自動で追従する機能などで人が運転するのをサポートする役割。すでに多くの乗用車に搭載され、実用化されている。
【レベル2】
レベル1の複数の機能を組み合わせたもので、運転する主体はあくまでもドライバー。ドイツのフォルクスワーゲンやトヨタ自動車などが実用化している。また、2019年9月に日産自動車が発売した改良型のスカイラインには、一部の高速道路で、走行中にドライバーがハンドルから手を離した状態で前の車を追い越したり、車線の合流ができる機能が搭載されている。
ここまでは運転する主体は人間。そして2020年、日本で初めてレベル3の車が発売される予定。
【レベル3】
運転する主体が人間からシステムに変わる。レベル2では人間がボタンを押すなどの指示をすることで追い越しや車線の合流などをしていたが、レベル3では指示をしなくても、ハンドリングや加速・減速の操作のすべてをシステムが自動で行う。緊急時のみドライバーが対応するが、通常時には運転手はハンドルから手を離すことができる。
2019年にはレベル3の実用化を見越して道路交通法や道路運送車両法が改正された。施行後には、自動運転装置による走行中に限り、運転手はハンドルから手を離してカーナビの操作などが許されることになる。
政府としては、2020年中にレベル3の「自動運転」実用化を目指しており、ホンダは2020年夏をメドにレベル3の技術を搭載した「レジェンド」の発売を目指している。
【レベル4】
高速道路だけでなく、限定地域内の一般道も含めた完全自動運転。トヨタ自動車は2020年夏に東京都内の公道でレベル4を搭載した車の試乗を行う予定。
【レベル5】
あらゆる場所において、すべての運転を自動システムが操作する完全自動運転。ここまではまだ世界でも実用化のメドは立っていない。
人間からシステムへ。自動車メーカーはレベル3以降の「自動運転」を活用した「MaaS」(モビリティー・アズ・ア・サービス)と呼ばれる、新たなサービスの提供に力を入れている。
例えば鉄道が不採算路線で廃線になり、代替のバスの本数も極端に少ない交通弱者と呼ばれる人々に対し、自動運転により遠隔操作された、運転手のいない大型乗用車などを走らせるサービスなどを想定している。2019年3月には、トヨタとソフトバンクが共同出資して、新たなモビリティーサービス会社「モネ・テクノロジーズ」が始動した。
また、輸送の世界でも自動運転に対する期待が高まってきている。2019年12月、トラックなどの商用車販売で国内最大手のいすゞ自動車とスウェーデンの自動車メーカーのボルボが、自動運転の分野などでの業務提携を発表。トラックやバスなどの長距離ドライバーの運転手が常時ハンドルを握らなくてもいいようにするため、自動運転の技術でサポートするなど、実用化に向けた共同開発が始まった。
しかし、世界に目を向けると、自動運転技術の分野では、グーグルの運転開発部門が分社化した「ウェイモ」が世界トップシェアを誇っており、日本の企業は出遅れているともいえる。「ウェイモ」はすでにアリゾナ州の一部の地域で「レベル4」にあたる無人の自動運転タクシーの商用運用を始めている。
一方、日本では主にソフトバンクグループが出資する移動サービス会社「モネ・テクノロジーズ」など業界の垣根を超えた共同開発の動きは出てきているものの、法整備が追いついておらず、実証実験もごく一部の地域に限られている。
世界をリードし続けてきた日本の自動車業界が、これからも先頭集団に立っていけるのか。2020年はその鍵を握る年といえそうだ。