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旭化成・小堀秀毅会長「誠実さを守りながら、サプライヤーと成長していくことが重要」

2024年8月31日 7:02
旭化成・小堀秀毅会長「誠実さを守りながら、サプライヤーと成長していくことが重要」
日本テレビのインタビューを受ける旭化成・小堀秀毅会長=7月、長野・軽井沢で

日本商工会議所が30日に発表した調査で、中小企業の価格転嫁が依然、浸透していない実態が浮き彫りになった。企業が価格転嫁をどう考え、取り組むべきかのヒントを探るため、価格転嫁の促進に取り組む企業経営者らにインタビューした。第3回は旭化成・小堀秀毅会長。

■中小企業の4社に1社が取引先からの“買いたたき”を経験~価格転嫁が浸透していない実態

日本商工会議所は30日、中小企業の「取引適正化に向けた課題」について、調査結果を公表した。下請け企業が不当に取引価格を値切られる、いわゆる“買いたたき”行為を受けた経験のある企業は約4社に1社。このうちの半数が「交渉を行ったが、コスト上昇分について十分な価格転嫁を受けられなかった」と回答し、価格転嫁がきちんと浸透していない実態が浮き彫りになった。また、政府が定めた価格転嫁の指針などについて、取引担当者の認識が不足しているという声も多く上がった。

価格転嫁と真正面から向き合っている企業として、大手総合化学メーカーの旭化成・小堀秀毅会長に単独インタビューを行った。旭化成の取り組みから、中小企業と取引をする大企業は、価格転嫁についてどのように取り組んでいくのが良いのか、考えたい。

■「サプライヤーと中長期的、安定的に友好な関係作りをすることが大切」

──今年、大企業や中小企業で歴史的な水準の賃上げが実現した。そのためには大企業から中小企業への価格転嫁が重要だ。経営トップとして、これまで価格転嫁にどのような姿勢で臨んできたか。

(旭化成・小堀秀毅会長)長かったデフレの時は、いつも「コストダウン」というのがキーワードでしたけど、今まさに大きな転換期です。インフレに向かう中で「適正な価格転嫁」というのが、これからのキーワードで、この言葉がコストダウンに変わって、世の中に多く使われるということが非常に重要な局面に来ているということを感じています。

当社は、やはり製造業ということで多くのサプライヤーとお付き合いがあり、我々は製造業として自動車、それから生活必需品なども含めた産業に素材を提供していくという、非常に重要な使命を担っています。つまり、安定的に供給するということが重要であるので、やはりサプライヤーと中長期的、安定的に友好な関係作りをすることが大切ということを常々、従業員に伝えています。

歴代の社長が毎年、前年の事業報告で各地区を回るのですが、冒頭に必ず我々のグループの理念、ビジョン、バリューを常に従業員に伝えていて、一つのカルチャー、企業文化として「誠実さ」というものは、極めて重要だということを訴え続けています。その中の重要な一つが、サプライヤーとの安定的で良好な関係作りだということを常に訴えています。

■下請法などの内容を従業員に認識させる講習会を繰り返し実施

――中小企業庁が以前行った調査で、受注者側から、かなり好印象を得ている企業として旭化成の名前が挙がっていた。具体的に、下請け企業に対して、どのような対応をしているのか。

(旭化成・小堀秀毅会長)日頃から、いくつかの施策を行っています。下請法などでの禁止事項、それから「パートナーシップ構築宣言」の中身などをしっかり理解しようということで、定期的に講習会を開いています。それから、下請法の禁止事項などを具体的な例を挙げて、eラーニングで教材を作って、そして従業員が自発的に勉強する。その中には小テストも入れて繰り返し、それを学ぶ。そういうことを毎年やっています。そういう意味では、価格転嫁に対する政府の指針をしっかり受け止め、サプライヤーとのお付き合いをさせていただいております。

企業文化、カルチャーを作るということは非常に重要で、こういったことは、急に「何かをやれ」と言っても、物事が過ぎれば忘れてしまいます。やはり、会社のカラー、カルチャーとして、ずっと風土として継続していく重要な項目ではないでしょうか。バリューの一つとして、誠実さやコンプライアンスを守りながら、サプライヤーとともに成長、発展していくことが非常に重要なポイントではないかと思います。特に我々、製造業は原燃料を仕入れて、そこで製造、加工をしながら、価値をつけてサプライチェーンに流していくポジションにいますから、やはり我々単独でお仕事できる流れはないですね。

■「会社や事業のために貢献できているかを重要なポイントとする」

――パートナーシップ構築宣言をしている企業でも、現場の担当者が(価格転嫁への取り組みを)していないということもある。そういうことが起きないようにするには、担当者が利益を上げるというよりも、そうした精神を持つことが、自分の賃金にも反映されるようにしていくということか。

(旭化成・小堀秀毅会長)会社や事業のために貢献できているかどうかということが非常に重要なポイントで、そういう視点で仕事ができているかどうかということを上司が部下に伝えていくことが重要ではないかと思います。手柄を上げたことで、会社のためにいい形になっているのか、事業に貢献しているのかということですね。「一時的にコストダウンさせて利益は出ているけど、下請け企業との関係がおかしくなっている」ということは非常にマイナスな話ですから、やはりそこは厳しく評価の中に出てくるということだと思います。

◇◇◇取材を終えて◇◇◇

中小企業の価格転嫁が浸透しない背景に「取引担当者の認識不足」という要因が大きく関わっていることが日商の調査結果でわかり、小堀氏が旭化成で実施している従業員の価格転嫁への認識の向上は、非常に重要な取り組みであると感じた。大企業の従業員が「価格転嫁を行うことが、取引先を含めたサプライチェーン全体の利益であり、それが自社への貢献でもある」という認識を持つ。経営側と労働側が、そのように認識を一致させれば、価格転嫁は進みやすいだろう。大企業は取引価格を押さえ込んで目先の利益を増やすことよりも、サプライチェーン全体で価格転嫁、賃上げ、生産性向上、イノベーションと進むことの方が、飛躍的に利益を拡大させる、そういった成功事例が目立つようになり、日本の競争力強化につながることを期待したい。