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食品ロス削減の秘策は「採れたて度」?

2021年2月20日 15:46
食品ロス削減の秘策は「採れたて度」?

年間およそ600万トン。これは、日本国内でまだ食べられるのに捨てられてしまう食品、いわゆる「食品ロス」の量です。(農水省調べ)換算すると、日本人1人当たり、毎日およそ茶碗1杯分の食品を捨てていることになります。食品ロスを削減できるカギとなるのか?政府と民間企業がある実験を行いました。“食品の行方を最初から最後まで追跡する”という試みです。

■野菜選びは本当に新鮮度で決めるのか?

実験は、小売店、消費者、全国の生産者の協力を得て行われました。生産者が野菜や果物など生鮮食品を収穫し、それを電子タグ付きのケースに入れるところから始まります。

この電子タグを利用して、食品の行方を追跡します。ケースの中には温度と湿度を計測する器具も同梱(どうこん)し、そのデータを活用して、食品がどれだけ新鮮さを保っているのかを予測します。それを「採れたて度」として数値化し追跡。収穫直後の状態を「100」として、その食品の消費期限の目安を「0」とする。小売業者は「採れたて度が高い」、つまり新鮮なものほど値段を高くして、「採れたて度が低い」、鮮度が落ちたものは価格も下げます。

例えば、採れたて度「86」のミニトマトは283円、採れたて度「67」だと208円、というように、需給に応じて価格を変動させ調整を図るダイナミックプライシングを採用します。

■商品見えないネットスーパー「鮮度」か「価格」か

このシステムの効果が表れやすいのが、ネットスーパーです。ネットでは消費者が商品を直接見ることができません。そのため食品が届いたときに「思っていたより新鮮じゃなかった」と感じさせないよう、新鮮なものから配送していると、実験に参加した大手ネットスーパーの担当者は話します。

ですが、消費者の購入基準は果たして「新鮮さ」だけなのでしょうか。20~40代の10人に、3週間採れたて度が表示されているネットスーパーで買い物をしてもらいました。

その結果、Aさんは、すぐに食べるつもりの葉物野菜は採れたて度が低くても安い方、食べきるのに時間がかかるニンニクなどは保存がきくよう採れたて度が高い方を選びました。一方でBさんは、葉物野菜は生で食べるから採れたて度が高いもの、加熱調理することの多いニンジンなどの根菜類は採れたて度が低くても安い方を選びました。つまり被験者は、「新鮮さ」だけを基準としているわけではなかったのです。

こうして採れたて度を表示することで消費者の選べる選択肢が増え、食品ロスが減る可能性があります。

■見える化が変える消費者心理

この実験は、家庭から出る食品ロスを減らす狙いもあります。消費者は商品の購入後も携帯のアプリで「採れたて度」を確認することができます。採れたて度が「0」になる、つまり消費期限の目安とされる日の朝にはプッシュ通知がきて、当日中に使い切るよう促します。また、購入した食品を何%消費したかを入力することで、余った食品を金額で表示する機能も付いています。値段を表示することで、消費者に食品ロスの意識を高める狙いです。

■売り切る小売店は?生産者も選ぶ時代へ

さらに今回のシステムでは、生産者も商品の行方を追跡できます。例えば、「この企業は採れたて度の高い商品を店頭に並べる」「この企業は採れたて度にかかわらず、商品を売り切ってくれる割合が高い」など、小売業者の傾向に応じて生産者が取引先を選べるようになります。生産者がデータに基づいて小売店を選ぶことで、双方が食品ロスをなくそうという意識付けにもなります。

■“茶碗1杯分”の努力
政府は今回の実証実験の結果を、3月末をめどに取りまとめます。ユニセフによると、世界の飢餓人口は、およそ7億人にものぼります。毎日茶碗1杯分の食品ロスを、削減することができるのか。1人1人の意識改革が求められています。