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若手記者が見た“リアル”な原発と処理水

2022年5月26日 20:35
若手記者が見た“リアル”な原発と処理水

東日本大震災から11年。東京電力・福島第一原発では、いまだ溜まり続ける「処理水」のタンクが並んでいる。この処理水を海に放出する計画について18日、事実上の審査合格が出された。いまだに爪痕が残る原発を震災当時は中学生だった若手記者が取材した。

およそ1時間にも及ぶ厳重な入構手続きや身体検査を終えて、専用バスに乗り込んで構内を進む。するとすぐに、高さ12メートルにもおよぶ巨大なタンクが、ところ狭しと並んでいる様子が見える。その数はなんと、1061基。タンクの中にあるのは、いまなお溜まり続けている「処理水」だ。

東日本大震災が発生したのは私が中学生のころ。原発が爆発する未曾有の事故の映像を見て、これが現実に起こったのかと衝撃を受けた。

それから11年たった今、エネルギー問題を担当する記者となった私は、初めて“あの事故現場”を取材する機会を得た。

■一見すると…整えられた原子炉建屋

11年前の東日本大震災では、津波により電源を失ったことなどから、福島第一原発の1号機・3号機・4号機が相次いで水素爆発を起こした。

当時テレビで見た“ガレキに埋もれた高い放射線量の原発”のイメージはいまなお残るが、すでに構内の9割以上では全面マスクや防護服は必要ない。

今回の取材では、ヘルメットや簡易マスクといった、工事現場の作業着のような服装で各地を回ることができ、「こんなに軽装で大丈夫なのか」と驚いた。

事故をおこした原子炉から、およそ100メートルの高台からは、建屋の周りで多くの人が作業している様子が見られる。建屋自体もすでに対策工事が施され、一見、爆発などなかったようにすら見えた。

しかし、その中では人類がいまだ経験したことのない規模の廃炉作業が行われている。

事故で溶け落ちて固まった核燃料の取り出し作業は、いまだに始めることもできていないのだ。

そして、その溶け落ちた核燃料に水をかけて冷やした際に発生する「汚染水」は、いまだに1日130トンものペースで増え続けている。そうした汚染水を浄化処理した「処理水」は敷地内のタンクで保管しているが、1000基以上のタンクも来年の秋には満杯になるとされている。東京電力の関係者は、「敷地面積も限界だ。このまま保管し続けるわけにもいかない」と語る。

■溜まり続ける処理水の行方

政府と東京電力は処理水をさらに海水で10倍以上薄めた上で、来年の春をめどに海に放出する方針を掲げている。さらに原子力規制委員会は、東京電力が提出した放出の計画について先週18日、事実上の合格を出した。

構内ではすでに、処理水を沖合1キロ先に流す「海底トンネル」の新設準備が進んでいる様子も見ることができた。海岸すぐ近くにあったトンネルの入り口部分には、穴を掘るための巨大なマシンが置かれていた。

しかし、地元自治体の事前了解や、放出に対する漁業関係者の理解が得られるかは不透明だ。事故による輸入規制などに長く苦しめられてきた地元関係者らの間では、処理水の放出が始まることで、また風評被害がおこることを懸念する声があがっている。

事故から11年がたち、目に見える限りでは後始末が進んだかのように見える福島第一原発。

しかし、実際の爪痕はなお大きく深い。廃炉作業の終結にどれだけの年月がかかるのか。私が目の当たりにしたのは、途方も無い道のりのまだ「始まり」の段階なのだ。