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処理水の海洋放出“風評被害対策”どうする

2021年4月25日 10:00
処理水の海洋放出“風評被害対策”どうする

東京電力・福島第一原発で今も増え続ける「処理水」。政府は13日、海洋放出する方針を決定した。放射性物質トリチウムの濃度を、基準値を下回るよう、海水で薄めた上で海に流して処分する。

処理水の安全性について、政府関係者は「ちゃんと説明すれば風評被害がおこるはずもない」と話す。しかし風評被害は、「心の問題だからこそ難しさを感じている」ともいう。放出が2年程度あとに迫る中、どのように風評被害に対応していくべきなのか。

■風評被害に苦しむ福島

処理水放出の決定後、地元からは反発の声があがった。福島県では原発事故のあとに、安全性が科学的に確認された後も、農産物や水産物が買ってもらえない状況が続いた。

今でこそ、農産物の流通は回復しているが水産物はいまだに影響が残る。出荷しても安い値段で取引されないか調べるためにいままで福島県では漁の回数などを制限しており、昨年の水揚げ量も事故前と比べて17%にまで減らしていた。ようやく4月から10年ぶりに事故前の水準に戻す、本格的な操業に移行し始めた矢先の決定だった。

福島での説明会で、地元の漁業者から政府に対して「自分たちが安全性を理解していても、世間で分かってもらえなければ結局買ってもらえない」「それでは生きていけないじゃないか」との声もあがった。

■「決して生じさせない強い決意」

こうした状況を受け、政府は風評対策を強化している。まずは安全性の実証だ。政府は風評の影響を抑えるため放射性物質トリチウムを、国が定める濃度限度の40分の1、WHO(=世界保健機関)の飲料水のガイドラインの7分の1程度にまで薄めてから放出する。その上で、放出前後の海に含まれるトリチウムの量を調べる。IAEA(=国際原子力機関)などの国際機関と協力し、国際的な基準と照らし合わせて問題がないかを確認する方針だ。

また、水揚げ量を増やすために漁業関係者が必要とする経費の支援を続けた上で、販売先の開拓なども支援する。このような対策をした上で、それでも出てしまった風評被害に対しては、原発をもつ東京電力が賠償を行うことを求めると明記した。

さらに、風評被害の対策のため関係閣僚による会議を新たに設置した。政府は放出の基本方針の中でも「決して風評影響を生じさせないという強い決意」のもと取り組むとしている。しかし、風評被害の対策にこれだけでは不十分だとの声もある。

■いま行うべき3つの対策

「これまでも政府はあらゆる対策をしてきたが、それはパンフレットの配布や販売促進イベントなどの“形式的”なものになっていた」

国の小委員会にも参加した、社会学者の東京大学・開沼博准教授はこのように指摘する。そして政府が“形式的”な対策を乗り越えるため、強化するべき3点をあげた。1つめは、どこから風評が出たか分析し、風評“加害”を明確にすることだ。

誰がどのような発言をすればどの程度SNS上でデマが広がるかなど、分析が今まで不十分だったという。2つめは政治家が全面にたって正しい情報を発信することだ。

例えば、米国ではコロナウイルスのワクチンを普及させるためにまず政治家が接種する姿を積極的に見せているという。一方で、風評被害をめぐって日本の政治家は全面にたって自分の言葉で話す姿勢が「圧倒的に足りていない」と指摘する。

3つめは、発信された内容がどの程度広まっているか“理解度”を調べることだ。パンフレットを配布して一方的に伝えるだけでは、正しく広まっているか分からない。汚染水と処理水の違い、トリチウムの性質などの事実がどの程度知られているか、世論調査の形式などで調べていく。理解度の数値目標を定めて、“達していなければ放出も難しい”とする覚悟が必要だという。

■菅首相「できることは全部やる」

22日、菅首相を訪れた福島県の内堀知事がまず伝えたのは、10年間、風評問題を払拭するため取り組んできた努力が、放出により水泡に帰してしまうのではないかという県民の思いだ。これに対して、菅首相は「風評対策についてできることは全部やる」としている。

処理水が放出されるまで、あと2年ほど。短い期間の中で風評被害を抑えて、地元の理解を得ることはできるのか。政府には“できること全て”を行う覚悟が問われている。

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