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「正直言って、」で改革進めた中西経団連

2021年5月15日 14:31
「正直言って、」で改革進めた中西経団連

■「正直言って、」で問題提起~改革の3年

「正直言って経済界は終身雇用なんてもう守れないと思っているんです」

2018年5月に就任以来、経団連・中西宏明会長は「正直言って、」と歯に衣着せぬ発言を繰り返してきた。

原発問題では――
「福島以降、原子力に関して真正面からの議論が不足している。政治家の皆さん、それ言い出すと選挙落ちるから」

学生については――
「アジアのトップの大学生と日本の大学生の勉強量、だいぶ違う。これはやっぱり問題」「態度が良いとか、偏差値高い大学から来たとか、それだけで採用するという傾向はやめたいなと」

そうした「チクリ」を言いっ放しで終わらせず、次々と改革を進めていた中西会長。

去年7月にリンパ腫を再発してからでさえ、変わらず経団連職員らに病室から指示を出していたという。しかし、10日、病気の治療に専念するとして6月1日付での退任を発表。経団連関係者たちの目に中西会長はどのように映っていたのだろうか?

「世の中が先々まで見通せていた。労働市場にしても気候変動にしてもSDGsにしても。将来はこうだな、っていうのが浮かぶんだと思うんですよ」

「ビジネスの現場での経験から積み上がった結論」

「柱ははっきりしているから、どの政策についても“中西さんならこういう考え方をするはずだ”とわかり、動きやすかった」

「“日本人は悲観論に立つけどそれじゃ人は動かない。明るい未来像を示してこそ世の中は動く”と」・・・

「道半ばして」とあちこちで残念がる声があがっているが、3年間で中西会長が種をまいたものの芽が出たり、苗になったりしているものがある。


■「大学側」と「企業側」の溝を埋める

たとえば「日本型雇用の見直し」。経団連会長就任3か月後の2018年9月、大学生の就職活動について「経団連が面接の解禁日はいつとか日程を決めるのはおかしい」と発言。採用活動の日程ルールを撤廃した。

背景には「4月新卒一斉採用」や「終身雇用」、「年功序列」といった硬直的な雇用慣行のままでは、海外との人材獲得競争で日本企業が戦えないという確信があった。

そしてこれをきっかけに、中西会長は国立大学、私立大学の学長らと経団連で「産学協議会」を結成。幾度も会合を重ね、大学側は企業の採用活動について、経団連側は大学の教育のあり方について、問題意識(不満)をぶつけ合った。その結果、それまで青田買いに使われていた“1日だけの名ばかりインターンシップ”が廃止された。

一方で、学生が長期休暇の際に腰を落ち着けてじっくり就業体験できるインターンシップを増やしていくことを決めた。就職のミスマッチの回避につながる。

今後も採用活動の改善やリカレント教育の拡充など協力していくというが、論点洗い出しだけに終わらず改革を進めることが重要だ。


■“経済界”自体の変革

中西会長は“経済界”も変えた。「産業構造が変わっている中で、大企業だけで構成されている経団連じゃ経済界を代表しているとは言えない。中から変えていかなくちゃ」。

今や世界の時価総額ランキング上位にはGAFAが並び、DX(=デジタル改革)があらゆる産業の成長エンジンとなる時代。重厚長大、歴史ある企業が名を連ねる経団連の会員に、ITベンチャーを取り込めるよう入会資格の「純資産額10億円」を「1億円」に引き下げた。

そうしてメルカリやアマゾン・ジャパンを始めとするスタートアップ企業が毎月加盟。時代の先端を走る若手経営者らの感覚やアイデア、情報が経団連の政策提言に反映されるようになった。

入会資格の改定以降27のスタートアップが入会したという。しかし現在会員企業数約1500社からすれば2%。「200社入らないと」と言っていた中西会長の目標には遠い。


■課題解決で経済成長

「政府が“第4次産業革命”って言っていたのを、ぼくが“Society5.0”に変えたんですよ」

ある時中西会長はこう得意げに話した。つまり起きているのは「産業」の変化なのではなく「社会」の変化。AIやIoT、ビッグデータなどデジタルの力を活用して明るい「社会」をつくる。「良いものをつくれば売れてもうかる時代は終わった」。「今必要とされているのは社会課題を解決するソリューションビジネス」。

もっとも大きな課題は、地球環境を変えてしまっている「気候変動」だ。任期4年の最後の1年はカーボンニュートラルに向けて、これまでの経験と能力と勘と人脈と…あらゆるものを用いて改革に取り組もうとしていたはずだ。

中西氏が経団連会長になる前の年。筆者は中西氏に、会長就任を依頼されたら経済界に貢献するために受けたいと思うかを聞いた。

その時の答えは「この歳になったら好きなことやらせてよ」だった。その「好きなこと」は決して“余生をのんびり楽しむ”ではなく、「世の中を良くすること」だったのだと推察する。


6月から会長となるのは住友化学の十倉雅和会長だ。会見では中西路線をしっかりと踏襲すると述べ「経済界のためだけでなく、社会全体を考えて行動する経団連でありたい」と強調した。

新型コロナウイルスの感染拡大で解決すべき課題は増えている。オリンピックはどうするべきなのか?ワクチン接種は迅速に進むのか?コロナ禍で疲弊した観光、小売りをどう回復させるのか?海外が先に回復していく中で、日本が後れを取らないよう経団連は何ができるのか?

スピードが遅いことが日本の大きな欠点である中、経団連には引き続き、「調整型」「最大公約数」でない、“迅速に行動する経済団体”を期待している。

写真提供:経団連

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