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宇宙×エンタメが宇宙を身近にし、次代へつなぐ【SENSORS】

2023年10月1日 19:22
宇宙×エンタメが宇宙を身近にし、次代へつなぐ【SENSORS】

何百年、何千年もの間、人類を魅了し続けてきた、宇宙。いまだ多くの謎が残るものの、近年の目覚ましい宇宙ビジネスの発達により、宇宙は私たちにとって身近なものとなりつつある。

宇宙からのデータは、すでに私たちの暮らしを守り、豊かにしている。さらなる活用を進めるには、より一層、宇宙を身近にし、さまざまな人が関わる“民主化”を目指し、みんなで考えていくことが重要だ。そのために、“エンタテイメントやメディアの力が欠かせない”と考える宇宙の専門家に、日本テレビのアナウンス部と宇宙ビジネス事務局とで兼務する、宇宙アナウンサー浦野モモが話を聞いた。

■宇宙を身近にする、エンタメの力

ソニーグループ株式会社で宇宙エンタテインメント推進室 室長を務める中西吉洋さんは、宇宙の民主化において、エンタメが大きく寄与すると考えている。

「1960年代、インターネットと同じぐらいのときから宇宙産業ってあるんです。でも、宇宙はまだ民主化できていません。宇宙って遠いものじゃないんだよと、もっと伝えたいですね。だって、地球も宇宙の一部で、ここも宇宙なんですよ。それに気づいてもらえるような番組を作ったり、『宇宙人ってどんな生物なんだろう』『人間と会話したらどうなるんだろう』と想像するような番組を作るのもいいですよね。そんな、日本らしい感受性を起点にした発想のコンテンツを作りたいですね」

弁護士で一般社団法人スペースポートジャパン設立理事の新谷美保子さんは、ロケット打ち上げ自体をコンテンツにするのはどうかと考える。

「打ち上げを見て人生観が変わったという人たちの体験談をよく聞きます。特に大型のロケットは、現場にいるとおなかに振動が響くのですが、あの体感は忘れられません。なぜあんなに感動するのか不思議です。生まれた瞬間からずっとかかっている重力に逆らっていく人類の英知みたいなものを感じるからかもしれませんし、何年もかけてみんなが作り上げたものが遥か遠くへ行くという感動かもしれません。多くの人に見に行ってほしいですね」

中西さんも、打ち上げを見にいくという体験をエンタメ化することに賛成だ。

「打ち上げ自体、お祭りにできますよね。発射場で1つのフェスティバルができるといいなと思います」

宇宙に行かない人たちが打ち上げを見に来るという現象が、今後、当たり前になるかもしれないと、新谷さんはいう。

「宇宙に行かない人も発射場に来るという世界は、すぐそこにあると私は思っています。自分は海外へ行かなくても空港へ行くだけでわくわくするみたいな、あの感覚を多くの人に体験してほしいです」

■宇宙は、価値観を大きく変える

宇宙がもっと身近になれば、私たちの考えはより柔軟になり、世の中はよりフラットになると語るのは、中西さんだ。

「宇宙には上下がなく、宇宙ステーションでは人はくるくる回っています。上と下って、地球の重力下だから生まれた概念だと思うんです。宇宙に行ったら、みんなもっと考えが柔軟になって、売上とか、上司・部下とか関係のない、フラットな世界になるかもしれないですよね。そういう発想はおもしろいと思いますね」

新谷さんも、宇宙へ行くと世界観が変わるはずだと考えている。

「宇宙飛行士の方が、宇宙から帰って地上に降り立ったときの草の匂いが忘れられないとおっしゃっていたのが印象的です。こんなにいい匂いがするんだと感動したそうです。地球で生活していれば当たり前のことも、宇宙から帰ると特別で、生きてることをより強く実感できるのではないでしょうか」

■宇宙という言葉がなくなる=宇宙が近くなる!?

そもそも“宇宙が身近になる”とは、どういうことなのだろうか。宇宙という言葉を使わなくなったときが、そのときなのではないかと、中西さんはいう。

「私たちは、アプリを使うとき、インターネットを使うとは言いませんよね。知らず知らず何かの裏側に宇宙の技術が使われているという状況こそが、宇宙が近くなっているということなのかもしれません」

新谷さんも「宇宙ビジネス」という言葉が、宇宙を遠く感じさせている気がすると、中西さんの意見に同意する。

「宇宙って、場所ですからね。海ビジネス、山ビジネス、地上ビジネスとは言わないのに、宇宙ビジネスというと、宇宙だけすごく遠い気がします。大きなリスクやお金がかかり、手が届きづらい産業だから仕方のないところもありますが、もうその障壁を乗り越えられるところまで来ていると思うので、みんなが関わって当たり前という分野になってほしいですね」

みんなが宇宙に関わる世の中にしていくためには、エンタメやメディアの力が欠かせない。新谷さんは、エンタメやメディアには、女性や若い世代が宇宙に興味を持つきっかけ作りを担ってほしいという。

「仕事をしていると何十人の会議に女性が1人だけというようなことが殆どなので、エンタメやメディアを通じて、宇宙に関わる女性が増えてほしいですね。それから、若年層やさらに下の子どもたちにも影響を与えてほしいです。宇宙は100年後、200年後にも続くものであり、大きな産業だと思うので、ぜひ宇宙のことを後世に伝えてもらいたいです」

株式会社天地人 取締役COOでJAXA 主任研究開発員の百束泰俊さんは、地上と宇宙との架け橋になることを、メディアに期待する。

「メディアの方々には、被災地への取材や農作物の収穫レポートに行くときなど、いろんな現場を回る中で常に、もしかしたら何か宇宙が使えるかもしれないという気持ちを情熱として持っていてほしいです。宇宙でできそうなことと地上で分かることの架け橋になってもらえたら僕たちとしても、嬉しいです」

宇宙を身近にし、民主化し、後世につないでいくこと。それは、地球や私たちの生活を守り、豊かにしていくに違いない。そのために、エンタメやメディアが担う役割は大きい。