コロナで苦境の日本酒を救え「酒ガチャ」
新型コロナウイルスの影響で苦境に立つ日本酒を応援するユニークな取り組み、その名も「酒ガチャ」。20日に迫った父の日を前に人気のワケとは?
■人気の「酒ガチャ」とは?
東京・足立区にある大型倉庫には、およそ15万本の酒がずらりと並ぶ。お酒のネット販売を手がける「リカー・イノベーション」が運営するお酒のオンラインストア「KURAND」の倉庫だ。今年こちらの3階建て大型倉庫に移転し、3月から本格始動した。新型コロナの感染拡大前は直営の飲食店が主軸だったが、感染拡大以降はネット販売に重点を移したという。
中でも人気なのが「酒ガチャ」。おすすめの酒の詰め合わせがランダムに届くサービスだ。何が当たるかは届いてからのお楽しみ。「酒を買いたいけれど、自分で選べない人」や、「自分では選ばない酒を飲んでみたい人」など自宅で手軽に飲み比べできる楽しさが受けて、今年1月から5月の「酒ガチャ」の売り上げは前年のおよそ3倍に急増した。
顧客のおよそ7割は20代から30代の若い層。コロナ禍で家飲みが増えたことや個性的なラベルやネーミングの面白さが若い層を引きつけたことも一因だという。
倉庫の中には広さおよそ70平方メートルの大型冷蔵庫がある。中は常にマイナス2度の温度に保たれていて、最大で1万本もの酒が保管できるという。
「リカー・イノベーション」広報マネジャーの辻本翔さんは「酒ガチャ」の魅力をこう語る。「完全非接触のギフトなので、遠く離れたお父さんへのギフトに最適。また、どんなお酒が当たったか、など親子間のコミュニケーションが起きやすいのもおすすめのポイント」
父の日は一年で一番日本酒が売れる時期で、出荷は今がピーク。父の日の目玉商品は全部で19種類。中でも、最も高額なのが「邑南」8800円(税込み)。「口当たりがやわらかで華やかな香りが特徴」だそう。島根にある酒蔵のそばで栽培された高級米と雪解け水を使い、地元の特色を生かしてつくられている。
■コロナ禍を“チャンス”に…大胆な組織改革
梱包(こんぽう)作業にあたるのは、もともと新宿や秋葉原の飲食店で店長をしていた社員。辻本さんは会社の業績がのびている理由を、コロナが起きてから早いうちに飲食店の一部閉店を決め、主軸をEC事業に移し、人員の大胆な配置換えをおこなったことが勝因の一つと語る。
一方、日本酒はコロナ禍の影響で苦境に立たされている。首都圏では飲食店の時短営業や酒類の提供休止といった感染防止措置が去年春から断続的に続いていることから、2020年の日本酒の出荷量は2019年から10.4%落ち込み、2021年1月から3月も前年割れ。(日本酒造組合中央会しらべ)日本酒は保存管理が難しく、時間がたつと品質が落ちてしまうこともある。
また、製造の一年前から翌年の製造量を決めてコメを買い付けるため、今のような先の見えない状況では製造量を減らす選択をする酒蔵も多いという。
■“SAKE”を世界へ…酒蔵と挑む
そんな中、「KURAND」では、商品を酒蔵と共同開発している。埼玉・深谷市の「滝澤酒造」と共同開発したスパークリング日本酒「白那」(はくな)4600円(税込み)は販売好調で、コロナ禍の中でも増産が決まった。「酒ガチャ」の仕組みによって売れる商品が偏らないので酒蔵も安心して酒造りに専念できるという。先月には、中国最大の通販サイトの厳しい審査を通過して出店。海外で新たな日本酒ファンを開拓している。
コロナ禍を逆手にとって新たな日本酒の可能性を切りひらくことはできるのか、挑戦は続く。