「本マグロ」の美味しさを未来へ繋げ!
絶滅危惧種とされ、漁獲枠が厳しく決められている太平洋クロマグロ。その量は少しずつ増え、漁獲枠を増やしたい日本の主張が初めて受け入れられました。マグロを守る人たちの努力と今後の課題とは?
■絶滅危惧種の「本マグロ」を守る日本企業の秘策
今月26日から3日間にわたり、国際会議で太平洋クロマグロの漁獲枠について話し合われました。
クロマグロとは、主に寿司や刺し身で食べられている「本マグロ」のこと。太平洋に生息するクロマグロは、乱獲などが理由で、2014年から絶滅危惧種に加えられています。そのため、2015年から関係国で厳しい漁獲枠を決め、資源管理を行ってきました。
さらに、クロマグロの人気が高い日本で進んでいるのが、より海の資源に優しいとされる「完全養殖」。養殖した魚を親として卵を採り、その卵をふ化させた稚魚を、いけすで育てて販売するものです。天然の稚魚をいけすに入れて育てる通常の養殖と違って、「完全養殖」は天然資源に頼らない魚の生産サイクルをつくることができます。
水産物の加工品などを製造販売するマルハニチロでは、2010年にクロマグロの「完全養殖」に成功。2019年にはヨーロッパへの輸出も始めました。ヨーロッパは生物の多様性を守る意識が高いため、日本と比べて高い価格での取引ができるということです。
しかし、通常の養殖と比べて手間も時間もかかる「完全養殖」を続けるのは簡単ではありません。コロナ禍でヨーロッパの新たな輸出先を開拓できないこともあり、現在は「育てれば育てるほど事業が苦しくなる」状況だといいます。
マルハニチロで養殖技術開発を担当する椎名康彦さんは、「資源に優しいというところに注目して『値段が高いけれど完全養殖マグロを買ってみるか』というお客様が少しでも増えてくれれば」と話し、資源を守るためには消費者の意識の変化も重要だとしています。
■4度目の正直で太平洋クロマグロの漁獲枠増枠へ
国際会議の最終日である29日、水産庁は、クロマグロの漁獲枠を一部増枠する方針で合意したと発表しました。日本は、順調に資源が回復しているとして、3年前から漁獲枠の増枠を求めていましたが、アメリカなどが時期尚早だとして強く反対したため、実現していませんでした。
しかし、今年、初めて日本の主張が一部認められたのです。
これから年末にかけ、さらに3回の国際会議で合意できれば、来年から30kg以上の大型魚に限り15%増枠します。
■漁獲枠はマグロの味にも影響あり?
漁業関係者は、漁獲枠増枠の合意をどう見ているのでしょうか?
豊洲市場でマグロの仲卸業を行う大元商店の横田繁夫さんは、「お客様のニーズに応えるのが仕事。枠が増えると選択肢が広がるので、ありがたい」と話します。
長年、市場に出回るクロマグロを見てきた横田さん。近年のクロマグロは、コクや甘みのあるものが減ってきていると感じています。そして、漁獲枠の厳しい制限は、クロマグロの味が変わった一因だというのです。
横田さんによると、漁獲枠に制限がなかった頃は、冬になると多くの船が海に出て、ライバルの船がいない穴場を見つけようと競い合っていました。すると、えさや水温などが違う環境で育ったマグロが市場に集まるため、マグロの味にも多様性が生まれます。
しかし現在は、船ごとに決められた漁獲枠にすぐ達してしまうため、穴場を探しまわることが減りました。こうして、似たような味のマグロばかりになったということです。
「天然のクロマグロは、赤身に甘みがあって後味が良いのが特徴」と話す横田さん。漁獲枠が増えることで、天然ならではの味わいをもつクロマグロが増えるのではと期待しています。
寿司屋でもスーパーでも1年中見られるマグロ。ぱくっと口に入れる前に、どのように育ったものなのかを気にかけてみてはいかがでしょうか。