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【独自】元幹部らは東芝発表をどう見たか

2021年11月14日 9:51
【独自】元幹部らは東芝発表をどう見たか

■「社長はモノ言う株主に脅されたのだろう」

8日、突如明らかになった「東芝を3分割する」という案。社内では「解体される」「社長は株主に脅されたのだろう」と不安の声が上がったという。3分割に反対する関係者はこう説明する。

「東芝には未来を変える宝の技術がたくさんある。分割されるとなると、まだ事業化されていないそういった技術が『金にならない』と切り捨てられてしまう」。

多額の資金と時間を要する研究開発は、売り上げ規模の大きな会社だからこそ可能になる部分もあるという。

■連呼された「株主価値」

「株主価値の創造と還元にコミットする新たなステップです」。「3分割」発表の会見で綱川社長はまず11分半かけてその狙いを説明した。その11分半の間に15回、「株主価値」が強調された。

「3つの狙いのうち一つは“株主への選択肢”を増加させること」

「専門性の高い経営陣が“株主価値”の顕在化を図る」

「資本市場と直接対話することで“株主価値の最大化”を意識」

「キオクシア株は可能な限り速やかに現金化し(略)全額“株主還元”に充当」

…などなど。

世の中には「新しい資本主義」の概念が広がりはじめ、「企業は『株主重視の経営』から『従業員、取引先、地域住民など広く関係者のためを考えた経営』に変わるべき」「社会的視点を持った経営を行おう」といった考え方が、リーディングカンパニーでは共通認識になりつつある。

株主価値の最大化は当然企業にとって重要だが、11分半の間に15回も「株主価値」「株主還元」といった言葉が連呼されたことには違和感が感じられる。

■「モノ言う株主に言われてそうしているだけ」

今回の3分割をどう見るのか? 企業経営に詳しい慶応義塾大学大学院准教授の小幡績氏はこう語る。

「単にアクティビスト(モノ言う株主)に“そうしろ”と言われたからそうしているだけ。まさにアクティビストの利益に合致している」。

まとまった東芝株を持つアクティビストにとって、会社全体を分割して上場するという大きなイベントは、東芝株を高く売ることができるチャンスになる。

また、東芝を所管する経済産業省の幹部らは……。

「分割そのものに意味はないが、分割することで、ある事業を切り出して他の企業の事業と統合し、技術的にも強くなるというケースもある」(経産省幹部A)

また分割、上場をきっかけに経営刷新に期待する声も上がった。

「解体といえば解体。でもこれで、できの悪い親(現経営陣)から独立、解放されて、借金の肩代わりもさせられなくなって元気に育つ子もいるだろう」(別の経産省幹部)

東芝は外資系ファンドに約4割の株式を握られ、外資の「モノ言う株主」から「配当の引き上げ」や「自社株買い」を要求されるのは「年がら年中」だ。そればかりではない。「5年分の営業キャッシュフローを全額、株主還元」するよう定款変更まで要求されたこともある。

こうした異常事態からいかにして抜け出すのか、東芝が2017年以降悩み続けていることだが、3分割をきっかけに変わるのか?

■「株主対応の公平性」の点で責任ありとした報告書

「3分割計画」発表の2時間前、もう一つの会見があった。

整理すると、

(1)6月に「東芝幹部らが経済産業省と連携して、外資ファンド「エフィッシモ」の株主提案が取り下げ、または否決されるよう画策した」という報告書が発表された。この調査者はエフィッシモが推薦した弁護士。

(2)これを受けて、この問題の「真因と責任を明確化」するために新たな調査が行われた。

12日に発表されたのは(2)の調査結果だ。結論は、東芝幹部らが経産省と共同して株主の提案を制約する「違法な」働きかけはなかったとされた。

しかし、経産省によるファンドへの働きかけを期待し、方向性をつくったとされる車谷暢昭前CEO、経産省とやりとりしていた豊原副社長、加茂常務ら3人とも、「市場が求める企業倫理に反する点」で「責任がある」とした。

■「市場が求める企業倫理に反する行為」とは何か?

報告書によれば、東芝の執行役らと経産省のやりとりは、「過剰な情報や意見の交換、外から見えにくい密室的な交渉態様に映っていて、株主対応の公平性、透明性に疑義を抱かせ、投資家一般、さらには株式市場の信頼を損ない、『市場が求める企業倫理に』反する」と説明している。

これを受け、豊原前副社長と加茂前常務は、日本テレビの取材に対し、「曖昧で恣意的。無理やり導き出したこじつけのように感じます。この不明確な結論の見直しを望みたいと思います」とコメントした。

ところで今回の報告書は「株主対応の公平性」で市場に疑義を抱かせたとして責任を問うているが、「モノ言う株主」らの東芝とのやりとりも、市場に疑義を抱かせていないだろうか。あるM&Aのプロは、「東芝のモノ言う株主は東芝の株価を上げたいが、彼らモノ言う株主がいることが東芝から大型の投資家を遠ざけている(東芝に投資をしないので株価が上がらない)」と言う。

■世界の10年後を変えられるか

「3分割の経営計画」と「株主対応の調査結果」。全く違うテーマでありながら、どちらも「モノ言う株主」の存在感が大きい。ちなみに東芝が保有するキオクシア株(旧東芝メモリ)の売却益について、ことし3月の時点では、株主への還元は「過半」となっていたが、12日の発表では「全額」に変わっていた。そうした変化を目の当たりにして、東芝の従業員らは安心して業務に邁進できるのだろうか。

「東芝の技術は世界の10年後を変える可能性がある、経営者がしっかりしないといけない」(東芝元経営幹部)

綱川氏は後任となる新たなCEO探しを6月から続けているというが、いまだ発表はない。

(*写真:3分割を発表する綱川CEO)