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【解説】日本で女性が組織で“活躍”できないこれだけの理由――経済界に聞いてみた

2023年8月5日 18:01
【解説】日本で女性が組織で“活躍”できないこれだけの理由――経済界に聞いてみた
「NEWSイチから解説」。

「来年は、より多くの女性リーダーに会えることを期待します」。
岸田首相は7月、経団連(経済団体連合会)の会合に出席した際、このように発言しました。経団連主要メンバーに女性が少ないことを皮肉ったものです。
なぜ日本では女性リーダーが少ないのか?経済界から本音を引き出し解説します。(解説委員・安藤佐和子

■男女差あるのか? いつから?リーダーシップの力

「学生時代を振り返って、リーダーシップで男女の差はあった?」。

後輩の男性記者(33)に聞くと「断然女子の方がリーダーシップありましたね」と返ってきました。

入社1年目の住岡佑樹アナウンサー(動画に登場)も「文化祭でも合唱コンクールでも男女差は感じませんでした」。それなのに不思議なのはこちらです。

世界経済フォーラムが発表している「ジェンダー平等指数」。日本は146か国中125位。先進7か国のひとつの日本なのに、ジェンダー平等では10位でも20位でも、50位ですらもなく、125位。下位15%に位置するという、圧倒的に男女不平等な状況になっています。

何をもって125位なのか?内訳を見てみると、男女差の大きい主なものは…。

・賃金
・国会議員や大臣の割合
・企業などの経営者、管理職の割合

政治や経済の分野で、責任ある立場にいる女性が少ないということです。

■政府も不合格だが…岸田首相が経団連に“チクリ”

こうした状況の中、先月、経団連の主要メンバー40人ほどが集まる「夏季フォーラム」が軽井沢で開かれ、駆けつけた岸田首相は、以下のように発言しました。

〇岸田文雄首相
「プライム市場上場企業が2030年までに女性役員比率を30%以上にすること、こうした大胆な目標を掲げました」

そしてこう続けました。

「来年もしこの場にもう1度お呼びいただけることがあったとしたならば、さらにより多くの女性リーダーにお会いできますことを期待しております」。

つまり、この時、首相の目の前にいた経団連主要メンバーたちはほぼ男性で、首相は「女性が少ないですね」「来年はもっと増やしてくださいね」とチクリと指摘したわけです。

経団連の主要メンバー40人のうち、女性は3人。全体の7.5%です。政府が企業の女性役員比率3割=30%を目指している中で、7.5%はかなり低いと言えます。

経団連はこれまでも女性役員を増やそうとしてきました。しかし、企業を見回しても、「そもそも企業の経営陣に女性がいないから、女性が起用できない」と頭を悩ませてきました。

■経営者らは知っている ――女性役員が増えない理由

企業が「女性役員3割」が難しい理由について、経営者たちはどう考えているのでしょうか?

〇大和証券グループ本社 田代桂子副社長
「足りないのは女性のやる気じゃなくて経営者のやる気。やろうと思えば絶対できる」
「どうしても”バランス”を考えているとかしているからなかなかできない」

田代さんが言う「バランス」は男女のバランスではなく、男性の中のバランスという意味だとしています。出世のパイが限られている中で、「次はオレが昇進する番だ」と思っているところに女性が入って来て、昇進の当てが外れたりしたら「男性のやる気の問題」が出てくる。それを気にして女性の起用が進まなかったのではないか、とみています。

〇KKRジャパン 平野博文社長
「改善しているとはいえ、男中心の、特に大企業であればマッチョな世界。それに(合わせて)無理してやってくれる女性でなければ偉くなれない、そういう悪循環だったと思うんですよね」
「あえて(女性が)入り込めないようなカルチャーをつくってしまっていたということじゃないですかね」

「マッチョ」な世界とはどのような世界か? 平野氏によると、深夜0時まで仕事をして、そのあと麻雀し、「あしたまた朝8時集合な」というような女性が入り込めない世界だと言います。

〇ユーグレナ 出雲充社長
「これはね、もうほんとに変わらない。変われない。”今まで(女性の役員比率が低くても)問題なかったじゃないか”と。”なんで変わらなきゃいけないんだ”っていうことを誰も心の底から理解できていないので」

『やらなきゃいけない真の意味』は、女性のためではなく、日本のためです。意思決定の場に性別、年齢、国籍など、多様な考え方や能力があった方が組織が強くなるからです。

■経団連会長 家内から「よく言うよね」と… 全然意識もしませんでした

さて、岸田首相にチクリと指摘された経団連ですが、トップの十倉会長は、女性が今より活躍できるようにするのに必要なことについて、次のように答えました。

〇経団連 十倉雅和会長
「男性も含めた働き方改革が必要ですね」。「パートナー、パートナーとよくいうが、本当にイコールパートナーになっているのかという。パートナーというのはこども子育ての義務を等分にシェアするという。海外は随分そうなっているんですね。まさに望めば、結婚してこどもを持って、働けるという環境、これを急いでつくらなきゃいけない」

「子育てを男女で等分にシェア」とまで踏み込みましたが、一方で、もし十倉氏も等分に育児を担っていたとしたら、今の地位を築けていたのか、そうしたことについてどう思うか、という疑問をぶつけました。

〇十倉会長
「これはパラダイム転換しなくてはいけないと思います。僕の発言を見ていて家内からよく言われます、「よく言うよね」と。昔はね、全然意識もしませんでした。正直言って孫ができて、孫の面倒を見ている娘を見て初めて、「育児、大変だな」と思った。こどもの子育てというのは男女等しく分担しなきゃいけない。女性に(社会で)もっと活躍してもらわなきゃいけない、昔からわかっていたわけじゃない、でもこのパラダイムは変えなきゃいけない」

十倉会長がここまで率直に発言した背景には、日本が直面している「働き手不足」の問題もあります。育児がある女性も、望めば会社、社会で活躍できるようにするためには『男性の働き方』を変えなくてはいけないということです。

もちろん、女性がみんな役員を目指すべきというわけでありませんが、少なくとも女性も男性と同等に活躍の機会が得られるように、これまでのおかしな制度、慣習を見直す時だと思います。