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10月開始「インボイス」に懸念……フリーランス「誰にとっても嫌な選択」、スーパー「不安いっぱい」 “廃業”で生活に影響も

2023年9月28日 10:30
10月開始「インボイス」に懸念……フリーランス「誰にとっても嫌な選択」、スーパー「不安いっぱい」 “廃業”で生活に影響も

10月から始まるインボイス制度。フリーランスで仕事をする人や、個人の生産者から野菜を仕入れるスーパーからは懸念の声が上がっています。政府側はメリットを示しますが、事業者の廃業につながる恐れも指摘されています。制度の中身や影響を考えます。

■フリーランス「どちらかが嫌な気持ち」

10月から始まるインボイス制度。27日夜、フリーランスでセミナーや製品紹介の映像編集をしているという女性に話を聞きました。

女性は「私はインボイス登録をすることにしました。登録してもしなくても、どちらかが嫌な気持ちをかぶるというか、誰にとっても嫌な選択を迫られるような制度だと思っています」と明かしました。

■インボイス制度でどう変わる?

個人事業主や企業で、年間の売り上げが1000万円以下の場合、免税事業者となることができます。これまでは、例えば100円の商品を課税事業者の取引先に売る際、10%の消費税10円を上乗せして請求していたとします。

この場合、免税事業者は納付を免除されるため、結果として110円全てが収入になっていました。次に、その取引先が消費者に商品代1000円で売ると、消費税分100円のうち、最初の事業者が納めることになっている10円を引いて、90円の税を納めればよい仕組みでした。

これが10月からは、消費税をより正しく計算できるようにするため、国に登録した事業者だけが発行できる請求書「インボイス」がない限り、10円を引くことができません。

ただ、このインボイスを発行するためには免税事業者が課税事業者に切り替わる必要があり、納税を免除されてきた分を納めないといけなくなるのです。

一方、免税事業者のままでいることも可能ですが、そうなると取引先は10円を差し引くことはできず損をすることとなり、「支払いを減らす」「あなたも課税事業者になってほしい」「別の業者と取引する」などと迫られるのでは、との懸念の声があります。

■公正取引委員会は「監視」強化

公正取引委員会は、こうした個人事業主への取引先からの圧力がないように監視を強化しているということです。

27日夜に取材に応じたフリーランスの女性は、今後への不安から登録を決めたといいます。

女性は「特別な取引先からの圧力はなかったんですけれども、登録していないということで、取引ができなくなったり、取引先の選択肢として選んでいただけなかったりということが容易に想像できました」と話しました。

■産直で仕入れ…スーパーの社長の悩み

懸念の声は、免税事業者とこれまで取引を続けてきた事業者からも上がります。

東京都内でスーパーを展開する「アキダイ」の秋葉弘道社長は枝豆の商品を手に取り、「この枝豆なんかは産直で、市場を通さないで個人の生産者に送っていただいています」と言いました。新潟の農家から直接買い付けています。

秋葉社長
「なかなか(農家の)おばあちゃんたちにインボイスの話しても、正直何事かっていう感じでしょうね」

他の農家からも「ガラケーしかないので、新システムに対応できません」というメッセージが届いています。

こうした物にもかかる消費税は、どう負担していくのでしょうか。

――店側が負担する可能性も?

秋葉社長
「どうなるか、ちょっと今後分からないですね。不安なことがいっぱいで。何か、特売で安くなっているというのができなくなったりとか、そういう場面は出てくる可能性はありますね」

私たち消費者にも影響が出るかもしれない事態となっています。

■登録へ約2年準備…個人タクシーの対応

既にインボイスの導入を決め、動き出している業界もあります。

個人タクシーの運転手は多くが免税事業者です。登録に向け、2年近く準備をしていたといいます。

横浜個人タクシー協同組合・門谷真人理事長
「将来的なことを考えますと、個人タクシー離れというか、法人のお客様の個人タクシー離れが懸念されるというのが、主な心配事で、それで対応していこうということに」

組合によると、売り上げの柱となるのはビジネスで利用する客です。「経費精算ができなくなる」などという懸念から組合が登録を呼びかけ、運転手の99%が登録しました。

門谷理事長は「将来の(個人タクシーの)後輩たち、それにつなげるためにも、お客様たちを逃がさないためにも、インボイスに対応していかなければならないというのが現状ですね」と話しています。

■辻さん「どちらにとっても負担大」

辻愛沙子・クリエイティブディレクター(「news zero」パートナー)
「そもそも消費税は所得税や法人税と違って、所得が低い人ほど負担が大きくなる税とされていますよね」

「その不均衡を解消するために免税事業者という税制ができた面もあると思いますが、それをひっくり返すほどのメリットが、政府の説明をいくら見ても正直感じられないなと思っています」

「私のような課税事業者側の目線で見ても、対応するための人件費などコストがとてもかかって、どちらにとっても負担が大きいなと思います」

■政府関係者に聞く…2つのメリット

中島芽生アナウンサー
「そもそも、なぜインボイス制度を始めるのでしょうか?」

小栗泉・日本テレビ解説委員長
「主に2つのメリットがあると政府関係者は話しています」

「まず、税の公平性を保つことです。今、課税するかしないかの線引きは売り上げ1000万円ですが、利益が同じであっても仕入れ額の違いなどにより、売り上げ次第で課税される人とされない人がいます。この不公平感が解消されるといいます」

「そして2つ目は、税を正しく計算することです。今の消費税率は10%と、商品の一部を8%に据え置く軽減税率がありますが、誰に何%、いくら払ったのか分かりにくくなっているところを解消したい、としています」

■未登録企業との取引停止の恐れも

小栗委員長
「10月からインボイスに登録するかしないか、事業者は選ぶことができますが、これまで売り上げ1000万円以下の免税事業者については、登録すれば新たに消費税の支払い義務が生じます」

「一方で、東京商工リサーチ情報部の原田三寛部長は、登録しなければ『廃業につながってしまう可能性がある』と指摘します」

「というのも、取引先の企業としては、自分たちの負担を減らすためにインボイス登録しない企業との取引を停止する恐れもあります」

「実際、インボイス制度導入後、免税事業者と取引するか東京商工リサーチが5390社にアンケートをした結果、『取引打ち切り』や『取引価格の引き下げを求める』と答えた企業は、合わせて11.7%ありました」

■迫られる難しい選択…支援策は?

中島アナウンサー
「登録するかしないか、難しい選択を迫られている人もいらっしゃいそうですね」

小栗委員長
「政府はそうした中、新たに登録した事業者に対して補助金の上限を50万円引き上げたり、10月から3年間は、売上時に受け取った消費税額の2割だけを支払えばよいようにする特例を設けたりしています」

辻さん
「自分は関係ないよ、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば好きなアニメのクリエーターさんや声優さん、町の青果店や個人経営の居酒屋、ウーバーの配達員の方など、ともすると廃業の危機にさらされています」

「気づいたら少しずつ、自分の日常や好きなものがなくなっていくかもしれない。そう考えると、この制度がひと事だと思える人の方が少ないのではないかなと思います」

中島アナウンサー
「そう聞くと身近に感じますね。10月1日から始まりますが、本当に大丈夫なのでしょうか?」

小栗委員長
「その点、与野党からも懸念する声が上がっています。与党幹部は『取引のプロセスが透明化されるから意味はあるが、廃止や延期を唱える人が多いというのは、政府の説明が足りていない証拠だ。首相が先頭に立って説明するべきだ』と苦言を呈しています」

(9月27日『news zero』より)

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