【解説】日銀が追加利上げ 政治の影響は? 金利はいつどこまで上がる?
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――金融政策決定会合は、たった今植田総裁の記者会見が終わりました。どんな内容でしたか?
まず会見の印象は、今まで植田総裁は相当、利上げなどに関して慎重な物言いでしたが、今回は、はっきり利上げと背景の消費の状況などに自信を持っているように見えました。実際あまりに弱気なことを言ってしまうと、円安に進んでしまうということもあったと思いますが、今後の利上げに関しても強気の印象でした。
■総裁会見のポイント
政策金利はこれまで0から0.1%というほんのちょっとだけプラスという状況ですが、これを0.25%程度に引き上げます。日本の政策金利がこの水準になるのは15年7ヶ月ぶりで、ずっと低かったんです。
二つ目、国債の買い入れを段階的に減額する、中身を発表しました。これは前回の会合で計画を今回発表することが決まっていたんですけれども、具体的には、段階的に3ヶ月ごとに4000億円程度ほど買い入れを減らしていって、2026年1月から3月には、今月間6兆円ほどの買い入れを月に3兆円程度にすると半減する、としました。3ヶ月ごとにこのぐらい減らすと市場関係者に予見可能性、これからどうなっていくかということをはっきりと示しながら減額していくということです。
それから、経済や物価の見通しが今のまま実現していくのであれば、引き続き政策金利を引き上げていくと、展望レポートにも書かれました。今は物価目標に向かっての流れがうまく沿っていて、そしてそれならば今後も政策金利の引き上げをしていくということです。それでどのぐらい引き上げるかということですが、日本は0.5%以上の金利というのは、もうずっと前なんです。ずっと0.5%以下の低い金利で来ていて、この金利の0.5%は壁になるのではないかという見方もあるんです。けれども、総裁は「0.5%は壁として意識しない」と話しました。
それから利上げをすると、住宅ローン金利が上がりますし、一方で預金などの金利も上がるということでプラスマイナスあるんですけれども、会見で総裁は利上げはトータルで家計にもプラスとはっきり言いました。住宅ローン金利の負担などは賃上げなどでだいぶ和らげるのではないかと。その背景として、今回の利上げに関しては、消費をどう見るかが課題でした。利上げに反対の委員もいましたが、総裁は、「消費は底がたく、一時的要因を除くと弱くない」と話しました。
■追加利上げで円相場は
まず昨日の深夜、一部の追加利上げという報道を受けてから円高が進んでいました。そして今日の午後、日銀の発表を受けて、1ドル=151円台までボンと円高に進み、直後に一気に2円近く円安に、153円台になって、だんだん落ち着いてきた感じです。総裁の会見の前は152円台80銭ぐらいでしたが、今そこからも1円ぐらい円高になっていますね。
植田総裁の会見の印象が今後も利上げをしていくんだと受け止められていると思います。
こちらは4月からの円相場ですが、一時、162円ほどまで円安が進んでいたんです。その後、政府の為替介入と見られる動きがあり、円高になってきていました。いよいよ、日銀が金利をこれから上げていく、アメリカは金利を下げていくという状況がはっきりしてきたということで、さらに円高に進んでいます。今回は利上げと国債買い入れの減額を一度にやると、「材料出尽くし」で円安になるという見方もありましたが、さらに利上げする姿勢だったことで、円高になりました。
――今回、追加の利上げを決めた背景はどういったものだったんでしょうか。
主に3つあります。
まず、賃金などの状況が目標に沿っているということです。展望リポートでは賃金と物価の好循環が引き続き強まり、再来年度にむけて、物価目標とおおむね整合的な水準になるとしています。
また利上げは中小企業などの経営に響くことから政権や政治家などが反対の姿勢だったが、ここにきて、利上げを容認する発言が相次いでいました。日銀は、はっきりは言えなくても、世論や政治がどう考えているかを気にしていると思います。岸田総理大臣が経済団体の会合で「金融政策の正常化が経済ステージの移行を後押しする」などと発言。自民党の茂木幹事長や河野デジタル担当大臣からも利上げを促すように見える発言がありました。政治がとにかく利上げは反対というのではなく容認していくというような雰囲気が出てきていました。
それから、日程です。日銀は正常化に向けて、金利を上げていきたいと思います。秋は自民党の総裁選など様々な政治プロセスがありますので、不透明になります。もしこの7月に状況が揃うのであれば、ここで1回追加利上げをしておきたいという考えもあって決定したのだと思います。
■利上げの影響
3月の利上げは、マイナス金利を脱して、政策の方向性をかえる象徴的な意味合いが大きかったんです。今回は上げ幅は小さいですが、だんだん実際の経済生活に影響がでてきます。
短期金利があがると、多くの人が借りてる変動型の住宅ローンの金利があがると見込まれます。中小企業がかりている融資の金利もあがって業績が厳しくなります。すでに金融機関によってはあげてきていますが今回の利上げが直接ローンの返済に響くのは、新規は早ければ9月から、すでに借りている人は来年1月くらい。また、お金を借りている企業の業績に影響しますので、この先、景気や経済の足を引っ張らないか、どんどん上がっていくとなれば、影響は大きくなってくると思います。
■国債買い入れ減額は予見性をもって
――日銀は国債の買い入れ減額の具体策も発表しましたが、これは市場の予想通りだったんですか。
おおむね市場の予想に沿っていました。3ヶ月ごとに4000円程度減額で、そして最終的には再来年の1月から3月には今の半分程度の買い入れになる見込みです。これは事実上の金融の引き締めで、正常化への一歩ということですが、投資家が混乱しないように予想できるようにということで、3ヶ月ごとの額、ペースもはっきりさせています。
――この後も利上げは続くと見ていいんですか。
一番のポイントですね。まずはこちらです。こちら今後のスケジュールです。秋には政治イベントがいろいろあります。自民党の総裁選がいつかまだわかりませんが、総裁が決まると衆院選もどこかであると見込まれています。日銀は、政治的に中立であるということを求められていますので。金融政策は変更しにくいと思います。日銀は今後のことも考えると、さらに金利を上げておきたいと思います。今後、景気が悪くなったり災害が起きたりなどの時に利下げという手段がとれないので、金利ののりしろを作っておきたいという気持ちがあると思います。年内にもう1回利上げを狙ってるかなと思います。
■米・大統領選の影響は
11月5日にはアメリカ大統領選挙もあります。これは日本の政治ほど直接影響するわけではないですが、アメリカの経済、あるいは政治の日本への影響は特に誰が大統領になるかにもよります。特に金融政策に影響する可能性があるのは、トランプ氏が大統領に就任する場合だと思います。
トランプ氏が現在掲げている政策は、輸入関税の引き上げ、法人個人減税、不法移民対策、はインフレになりやすい、ドル高円安になりやすい政策といわれます。、前回トランプ氏が大統領になったときには、アメリカの株と金利が急騰しました。一方でトランプ氏はドル高を批判しています。就任後は政策金利を下げると言っています。逆方向の政策です。実際の就任は来年ですが、トランプ氏の動きで、円相場が不透明になります。例えば1985年プラザ合意のようなドル高是正の合意を例えばトランプ氏の別荘などに集まってする可能性もあるのではなどと市場で言われています。急激な円高が進む心配があると日銀は円高をそれ以上刺激するわけにいかず、出口戦略は大きく後退する可能性もあります。
――ハリス氏が勝った場合は?
ハリス氏は今あまり経済政策の話をしていませんが、基本的にはバイデン大統領の政策を引き継ぐとみられます。日銀の次の会合がある9月には政治も経済もだいぶ情勢が見えてきますが、そのあと日銀はどうするか、注目したいと思います。