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「熊本の農業の未来は?」TSMC工場開所1年 "工農共存"のサイエンスパーク開発した台湾は

2025年2月20日 19:25
「熊本の農業の未来は?」TSMC工場開所1年 "工農共存"のサイエンスパーク開発した台湾は
TSMCの進出で変わる熊本のまちや人々の暮らしをお伝えする「チェンジ熊本」。TSMC第1工場の開所から1年、今回は「熊本の農業の未来」について考えます。県政担当の藤木紫苑記者です。

(藤木紫苑記者)
熊本県の集計によりますと、TSMCの進出が発表された2021年10月から去年9月までに231ヘクタールの農地が転用されているといいます。

(緒方太郎キャスター)
元々農業が盛んな地域だったわけですよね。

(藤木紫苑記者)
TSMCの工場周辺の自治体では、半導体関連企業の進出やマンションの建設ラッシュなど街全体が大きく変化しました。一方で、この目まぐるしい変化に今も翻弄され続けている農家がいます。

菊陽町の農家、相馬和幸さんです。TSMCの工場周辺など3ヘクタール余りの農地でサツマイモや落花生などを育てています。
■相馬和幸さん
「今、もう第2工場の建設が始まろうとしてるんですけども、やっぱり大きく様変わりしてますよね 風景も…」

今、TSMCの第1工場が建っている土地にも、父から引き継いだ約15アールの農地を持っていた相馬さん。当時は作付け面積を縮小しようと考えていたため、売却に応じました。

この日、私たちが訪れたのは、第1工場の南側にある約3アールの農地です。相馬さんが地主から土地を借りて作物を育てています。実は、この土地でも、ある計画が進んでいました。
■相馬和幸さん
「自分たちがいるこの場所も、町が工業団地を造るということで…」

去年9月、菊陽町が工場南側の約25ヘクタールに、半導体関連企業の誘致のための工業団地を整備する計画を明らかにしたのです。農地の今後については、地主の判断に委ねられています。

一方で、この農地で育てる作物は相馬さんの収入の4分の1ほどを占めていて、手放さざるを得なくなれば大きな痛手となります。
■相馬和幸さん
「町のことを考えれば、こういう工場とか工業が進出してくるのはいいことかなと思います。ただその陰でやっぱり泣いている農家もやはりいるかなとは思います」

(緒方太郎キャスター)
確かに工業団地の整備のほか、熊本県はTSMCの第3工場の誘致にも動いていますので、今後も農地の転用という問題には向き合っていかないといけないということですね。

(藤木紫苑記者)
KKTでは、熊本の農業の未来を探るため台湾の南部を取材してきました。半導体と農業の共存は可能なのか、農家の現状を取材しました。

台湾南部に位置する「台南サイエンスパーク」です。
■藤木紫苑記者
「あちらから、こちらも…すべてTSMCの工場です」

「サイエンスパーク」とは、産学官が連携して企業の集積や誘致などを行うエリアです。台南では1996年から政府による開発が進められ、TSMCなど半導体関連企業が数多く立ち並んでいます。総面積は約2324ヘクタール。東京ドーム約494個分です。

最先端の企業が集まる一方、パーク内には農地もあります。キャベツなどを育てている李錦德さんです。パーク内にある政府直轄の管理局が、土地の利用について厳密に管理しているといいます。

■李錦德さん
「(パーク内は)エリアが特定されていて、住宅とビジネスのエリアがあり、ここは農業エリアです」

台南は元々農業が盛んな地域です。農地を工業用地や宅地に転用する場合、管理局が代替地の選定なども行うということです。

李さんは開発当初、農地の過度な減少や水や土壌への影響などを懸念し、半導体企業の集積に反対していたといいます。しかし管理局の存在もあり、農業への目立った影響は今のところないと話します。

■李錦德さん
「熊本の現状は20年~30年前の台南サイエンスパークに似ていると思います。ビジネスチャンスも増えているし、土地の値段も上がったので、30年経ってみてメリットはたくさんあったと思う」

こちらは元料理人の陳冠彣さん。数年前、農家に転身し、パーク内の農地でトウモロコシなどを育てています。企業の集積に伴い周辺地域には住宅や飲食店など賑わいが創出され、農作物の販売先も確保できることから、パーク内での農業は安定的に収入を得やすいと話します。

■陳冠彣さん
「サイエンスパークにはTSMC関連のエンジェニアなど高収入の人が集まります。もちろん農業の土地も減少を続けますけど、逆に農業をやっている若者にチャンスがあります」

(緒方太郎キャスター)
取材を通じて何を感じましたか?

(藤木紫苑記者)
台南は元々農業が盛んな地域で、条件が熊本に似ていると思いました。サイエンスパーク内の農家などを取材しますと、農地は減少したものの、政府の機関が土地を管理していて、代替地の選定なども行っていることが特徴的でした。

現在、熊本県は台湾を視察するなどして、県内の広い範囲を対象にした「熊本版のサイエンスパーク」のあり方について検討を進めています。先行事例である台湾をしっかりと参考にしながら、日本や熊本に適した方法を模索していく必要があると感じました。

最終更新日:2025年2月20日 19:29
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