広島に本社移転した“愛媛を代表するスーパー”フジ「それでも、地域のために」目指すは1兆円企業…イオンと統合、増収増益の先に見据える展望は
今月8日松山市で行われた、スーパーを展開するフジの連結決算の発表会見。
「マックスバリュと共同で商品開発などにも取り組み、良い方向に向かっている。ステークホルダーからも『よかったね』『うまく進んでるね』と実感してもらわないといけない」
イオングループのマックスバリュ西日本との経営統合が決算に与えた影響を問われた尾﨑英雄会長は、少し間を置いて次のように力を込めました。
「周囲の期待が高い今こそ、フジは変わっていかないといけない」
今年3月、旧フジにあたるフジ・リテイリングとマックスバリュ西日本を吸収合併する形で誕生した“新生フジ”。
半世紀あまりにわたって松山市に本社を置いてきましたが、このたび広島市に移転。しかし、旧フジの店舗数で見ると愛媛県には53店舗、広島県には25店舗と、引き続き“愛媛を代表するスーパー”の地位を占めています。
今回の2月期決算発表の記者会見でも、本社を置く広島市では山口普社長が、松山市では尾﨑会長が対応するという“二元体制”の形となりました。
経営統合と本社の移転、そして決算の増収増益。
“新生フジ”が地元・愛媛と歩む展望とは。
「財布のひもは固くなっている」
売り上げにあたる「営業収益」は8010億円(+2.0%)、「営業利益」は151億円(+33.5%)と増収増益となったフジ。いずれも過去最高を更新しました。
決算が好調だった要因についてフジは
・食料品を中心に売り上げが堅調に推移したこと
・在庫管理を徹底しロス削減などの取り組みを進めたこと
・電気事業者との契約見直しで電力単価を低減したこと
などを挙げています。
しかし尾﨑会長は、物価の高騰に触れ「間違いなくお客さまの財布のひもは固くなっている。生活防衛の意識は高まっていると感じる。売り上げが上がったとしても購入点数で見ると増えてはいない」と説明します。
実際、旧フジで見ると「客数」や「客単価」は前年度を超えていましたが、「1人当たりの購入点数」は前の年と比べるとマイナス2%と減少しています。
「商品の余分な在庫は持たないということの徹底。一方で、お客さまが欲しい商品を欠品してしまう“品枯れ”はさせない」という両者のバランス維持に苦心してきたという尾﨑会長。
こうした中、2025年2月期の通期での業績予想では、「営業収益」が8100億円、「営業利益」は155億円と、いずれも過去最高を再び更新する“増収増益”を見込んでいるというのです。
「1兆円企業」へ…小規模店舗の拡大も
止まらない人口減少に家計の節約志向の高まり。スーパーだけでなく地域におけるビジネス環境は決して“順風満帆”ではありません。
フジが発表した中期経営計画によると、2026年度までに愛媛や広島などにある既存の約150店舗を対象に、スクラップ&ビルドを含む改築・改装に着手するとのこと。
老朽化した売り場やテナントの改築や冷蔵・冷凍設備のリニューアル。また、客のニーズに応じた売り場の拡大や効率化に取り組むとしています。
また、「具体的な計画は未定」としながらも、人口減少が進む中四国のエリアを中心に、新たにスーパーとドラッグストアを融合させた小規模店舗の新規出店も検討しているということです。
さらに、昨年度は約20億を売り上げた過疎が進む地域への移動スーパー“おまかせくん”についても、人口減少への対応策として「新規ルートの追加など拡大注力する」(尾﨑会長)
リアルの店舗だけでなくECや移動スーパーなどノンリアルにも投資を続け、2030年度の売り上げ(営業収益)1兆円を目標に掲げています。
“それでも、地域のために”
「昔は『この期間だけ特別安い』けど、それ以外の期間は通常価格で売るということをやっていました。でも最近は『年中いつでも安い』ということにウエイトを置いています」
尾﨑会長は、仕入れ価格などが上がる中でも商品価格をできるだけ抑え、増収増益につなげられた背景には、“ある思い”のもとで汗を流してきた現場担当者らの努力があったといいます。
「買い物に来られるときにフジを選んでもらえるかどうか。商品でも価格でも。物流の“川上”で上がった値段をそのまま私たちも上げていたら、地域の皆様の暮らしが成り立たなくなる。我々は『緩衝材』にならないといけない。創業以来、私たちは地域の、お客様の暮らしのためにという思いでやっている」(尾﨑会長)
「フジは広島の企業になったん?」
最近、取材で出会う様々な県民の方から、そう問われる経験が多くなってきました。しかし、実際の店頭を見たらプライベートブランドが「スタイルワン」から「トップバリュ」に変わっている程度の変化しか気づかないかもしれません。
今回の記者会見終了後、「やっぱり、決算については愛媛でも発表することは続けていきたいね」とつぶやいた尾﨑会長。
新生フジが掲げたスローガンは「地元に、新しいつながりを。」
“愛媛を代表するスーパー”が、今後地域とどのようなつながりを持ちながら「1兆円企業」を目指すのか。愛媛の消費者も注目しています。
(オピニオン室 植田竜一)