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【特集】“殺傷能力のある武器”の輸出がついに解禁 5年で43兆円の予算に、新規参入企業も続々 技術力・防衛力の発展に繋がるのか?それとも…過熱する「日本の防衛産業」の今を追う

2024年1月18日 19:30
【特集】“殺傷能力のある武器”の輸出がついに解禁 5年で43兆円の予算に、新規参入企業も続々 技術力・防衛力の発展に繋がるのか?それとも…過熱する「日本の防衛産業」の今を追う
次期戦闘機も輸出可能に?どうなる日本の「防衛」(提供:航空自衛隊)

 2023年12月22日、日本政府は方針を大きく転換し、ミサイルなど“殺傷能力のある武器”の輸出を解禁。「防衛力強化」を掲げ、5年間で43兆円という破格の予算が組まれるなど、防衛産業に大きな変化が起きています。新規参入を目指す企業が増え、中には一見関係なさそうな会社も…過熱する「日本の防衛産業」の今を追いました。

世界有数の技術力誇るも存続の危機にあった “日本の防衛産業”

 この日、兵庫・神戸市にある工場では、メンテナンスを終えた機体が、企業から海上自衛隊に引き渡されました。その名は「US-2」―国産の救難飛行艇です。水陸両用で、海面をたった280メートル滑走するだけで飛び立つことができます。さらに、機体の先端部分に「波消し装置」と呼ばれる部品を付けることで、波の高さが3メートルもある荒れた海でも着水可能に。どちらも世界最高レベルの性能です。

(海上自衛隊・鈴木利周機長)
「洋上で迅速に救助できるのは、『US-2』だけであります。人命救助においては、重要な航空機であると考えます」

 「US-2」のような、世界有数の高い技術で自衛隊を支えているにもかかわらず、日本の防衛産業は存続の危機に瀕してきました。

(田中克夫事業部長)
「ほぼ赤字になるかならないかぐらいのところで、推移しています。いかに生産ができるように続けていくかは、一番苦労しているところです」

 その大きな理由は、受注先がほぼ自衛隊だけに限られていることです。自衛隊からの受注は、数年に一度しかない企業もあります。しかし、その間も設備や技術者を維持するなどコストがかさみ、ビジネス面でのうまみが少なく、日本の防衛産業に関わる企業は直近20年で100社以上が撤退しました。そこで政府は、5年間の防衛費をこれまでの約1.5倍の43兆円に増額し、国内の防衛産業の支援を次々と打ち出しました。

防衛費の大幅増加で中小やベンチャー、新規参入続々 「武器は作れないけど、心を」「3Dスキャンで傷発見」…これまで縁がない企業が見据える“日本の防衛”

 撤退が相次いでいた日本の防衛産業ですが、防衛費の大幅増加によって、今、新規参入が相次いでいます。2023年10月、大阪・梅田で開かれた防衛産業の展示会には、これまで「防衛」とは全く縁がなかった中小やベンチャー企業が多く出展していました。

 普段、介護の現場などで認知機能をチェックするサービスを提供している会社は―。

(トータルブレインケア・河越眞介社長)
「隊員の認知機能が正常に働いていないと、違う行動をしてしまったりします。武器は作れないけど、隊員の皆さまの心のところで貢献できないかなということで、参加させていただきました」

 2017年に創業した京都市のベンチャー企業「DiO」は、災害や火災に備え、歴史的な建造物をドローンなどで3Dスキャンし、アーカイブとして保存する事業を手がけています。防衛産業とどう結びつくのか―想定しているのは、自衛隊の大型車両などを3Dスキャンすることで、細かなキズや錆などを自動で見つけるシステムです。大型の護衛艦や輸送機などは、人が目視で確認するのは手間がかかります。しかし、この方法なら省力化が見込めるため、隊員不足に悩む自衛隊への売り込みを目指しています。

(DiO・小田守営業部長)
「今、防衛装備に関する国の予算と政策は非常に大きなものを持っていて、私どものようなベンチャー企業にもチャンスがあります。市場がそもそもあると判断しているので、そこが(参入の理由として)一番大きいと思います」

 展示会を主催した防衛装備庁は、今後も民間企業が防衛省や自衛隊とマッチングする機会を増やしていくと意気込みます。

(防衛装備庁装備政策部・伊藤和己課長)
「なるべく多くの企業に防衛産業に参入していただいて、我が国の技術的な優越性を確保するとか、サプライチェーン(供給網)の強靭化ということになると、我々の防衛力の強化にもつながると思っていますので、ぜひ多くの企業に参入していただきたいです」

4基で契約金140億円以上!開発拠点を新設し、第三国への輸出を強化する大手企業も

 防衛産業の盛り上がりは、大手企業にも―。取材班が訪れたのは、兵庫・尼崎市にある三菱電機の開発・生産拠点。ここでは、ミサイルや戦闘機を探知するレーダーなどを作っています。三菱電機は2023年5月、防衛予算の増額を受け、防衛・宇宙事業の人員を1000人ほど増やし、さらに700億円をかけて、開発生産拠点を新たに建てることを決めました。

(「三菱電機」電子通信システム製作所・桜井英一工作部長)
「これは、電波を出すホーンという部品です。単純なラッパに見えますけど、この形状の精度が(要求が)非常に厳しくて、数ミクロンということで、1ミリの1000分の1単位の精度が要求されます。髪の毛の太さの100分の1オーダーです」

 こうした加工技術が、レーダーの電波を正確に出すために欠かせないのだといいます。高い技術が認められ、2023年10月にはフィリピン軍向けに警戒管制レーダーを輸出し、契約金額は4基で約1億ドル、日本円にして140億円以上。現在のルールの下では、日本初となる完成装備品の輸出となりました。

(「三菱電機」電子通信システム製作所・増田直人所長)
「メーカーとしては、多くの製品を供給させていただくことができるのであれば、第三国への移転も可能なほうが、ありがたい。政府の方針に従って、海外展開、海外移転(輸出)を積極的にやっていきたいと思っています」

“殺傷能力のある武器の輸出”解禁 賛否両論も、政府が回避したい「防衛装備の“ガラパゴス化”」

 日本の防衛産業は2023年12月22日、大きな節目を迎えました。日本でライセンス生産した迎撃ミサイル「パトリオット」を、アメリカへ輸出することを決めたのです。戦後、長きにわたり制限してきた“殺傷能力のある武器の輸出”が解禁。政府としては、海外へ輸出を認めることで、自衛隊以外の市場を開拓し、防衛産業の衰退を防ぐ狙いもあります。

さらに政府は、日本・イギリス・イタリアで初めて共同開発し、2035年までの配備をめざす次期戦闘機について、第三国への輸出も検討しています。与党内での議論を取りまとめる小野寺元防衛大臣は、海外輸出の意義を強調しました。

(元防衛相・小野寺五典議員)
「今回の第三国移転の議論は、日本の所望というよりも、一緒にやっているパートナーの国から要請を受けています。こういう枠組みに応えないと、『日本は共同開発を本当にできる国か?』と、今後いろんな新しい装備を開発する枠組みのなかで、日本は敬遠されてしまうかもしれない。日本の防衛装備がガラパゴス化してしまいますし、結果として、自分たちが使う装備をむしろ輸入してこないといけない。私は、日本としてはあってはならない方向だと思います」

 ただ、他の国を攻撃できる戦闘機の輸出には与党内からも慎重論が出ていて、公明党は「国民の理解が十分に得られていない」と難色を示しています。

(公明党・石井啓一幹事長)
「第三国に輸出するということは、これまでのあり方を大きくはみだすあり方ですから、慎重であるべきだという考え方であります」

 賛否両論が巻き起こる中、日本の防衛産業の熱は確実に高まっています。

(「かんさい情報ネットten.」2023年12月26日放送)

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