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2023年“知られざる”世界10大ニュース…日本で注目されなかった世界の重大な出来事は

2023年12月22日 21:31
2023年“知られざる”世界10大ニュース…日本で注目されなかった世界の重大な出来事は

2023年の国際ニュースを振り返ると、ウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ地区での戦闘が大きく取り上げられた。世界では他にも重大な出来事が数多くあったが、大きな話題の中で埋もれてしまうことも。日本で注目されなかった重大な国際ニューストップ10は?(国際部・内山瑞貴)

■世界の“知られざる”重大ニューストップ10は?

メディア研究機関Global News Viewが「世界の“知られざる”重大ニューストップ10」を発表した。2023年に発生した出来事のうち、日本ではあまり話題になっていないが、国際ニュースとしては重大な動きがあったトピックをランキングにしたものだ。

■サウジ国境警備隊が数百人の移民殺害か…スポーツやエンタメ「イメージ戦略」のウラで

2位には「サウジアラビアの移民殺害」がランクインした。2022年3月から2023年6月に、サウジアラビアの国境警備隊が少なくとも665人、多ければ数千人のエチオピア人移民を無差別に殺害していたことが、国際人権団体の「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」の調査で判明した。

報告書によると、紛争や貧困を理由に、エチオピアから多くの人がイエメンを経由してサウジアラビアに入っていて、およそ75万人のエチオピア人が働いている。しかし、生存者の証言などによると、国境を越える際、女性や子どもを含め至近距離で射殺されたり、バラバラに切断された遺体が放置されたりしていたという。

AFP通信などによると、サウジアラビア政府は「事実無根だ」と主張している。

サウジアラビアは近年、クリスティアーノ・ロナウド選手などサッカーの世界的なスター選手との契約に巨額の費用を投じたほか、エンタメやスポーツイベントの開催に多額の投資をしてイメージアップをはかっているが、それらは移民殺害といった人権侵害から国内外の批判の目をそらすためだと報告書は指摘している。

■「結核」治療で前進 多剤耐性結核のジェネリック製薬可能に…製薬会社の特許問題にメス

5位にランクインした、「結核のジェネリック製薬が可能に」は、防げるはずの病気で亡くなる人が世界で大勢いるなかで、一つの明るいビッグニュースといえる。

結核は、結核菌という細菌に感染して起きる病気だ。予防も治療もできる病気であるが、WHO=世界保健機関によると、2022年には世界で130万人もの人が亡くなった。

なかでも、薬に耐性を持ったタイプの結核=多剤耐性結核が問題となっている。ただ多剤耐性結核も治療は可能で、その有効な薬のひとつに、医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンが特許を持つ「ベダキリン」という薬がある。

イギリスメディアによると、この薬の特許は2023年7月に期限を迎える予定だったが、ジョンソン社は薬に小さな変更を加えて特許を延長、独占を続ける判断をした。そうなると、他のメーカーが安価なジェネリック医薬品を作ることができず、所得の低い国が治療薬を手に入れることが難しくなる。

製薬会社が特許を独占することで救えるはずの命が救えなくなってしまうという批判の声が高まり、ジョンソン社は薬の価格を半額以下に引き下げた。さらに、2023年9月に、世界の134の低中所得国で使われる場合に限り、特許を取り下げるとしたため、ついに「ベタキリン」のジェネリック医薬品が作れるようになった。

今回の決定で、多くの人の命が救えるようになる見込みであり、こういった製薬会社の特許の問題が今後改善していくことが期待されている。

■世界最大規模の麻薬大国でケシ栽培が激減…タリバンが取り締まりを強化ナゼ?

10位に入っている「アフガニスタンのケシの生産量が95%減少」も重大な動きといえる。

UNODC=国連薬物犯罪事務所の報告書で明らかになったもので、アフガニスタンでアヘンの原料となるケシの2023年の栽培量が、前の年に比べて推定で95%減少した。

その理由は、アフガニスタンで実権を握るイスラム主義組織タリバンが2022年4月に「麻薬禁止令」を出してケシの栽培を禁止したからだ。アフガニスタンはこれまで世界最大規模の麻薬の製造国で、アヘンの2022年の推定製造量は6200トン、世界の約8割を占めていた。

麻薬の密輸による収入はこれまでタリバンの重要な資金源になっていたといわれているが、ケシの栽培はイスラム教に反するとして「麻薬ゼロ」をうたって取り締まりを強化したのだ。

この取り組み自体は良いことのようにも聞こえるが、これまでケシ栽培で生活していた農家にとっては大打撃となった。農家は小麦の栽培などに移行したが、ケシに比べて小麦の価格が安いため、農民の収入は大幅に減ってしまった。

また、これで世界で違法薬物がなくなるわけではなく、かわりに、クーデターで政情不安となったミャンマーでケシの栽培が急増し、ミャンマーが世界一のアヘン生産国に躍り出た。

■世界の重大ニュース「遠い世界の他人事」ではなく自分事に

このランキングを公表したGNVの編集長ヴァージルホーキンス教授は「グローバル化が進むなかで、格差や貧困・武力紛争・環境問題・保健医療に関する問題など、私達の見えないところでさまざまな現象がいま、世界規模で複雑に絡み合っている」「現在の国際報道は、日本にとって繋がりがあるのかという観点が重視され、出来事の規模がニュースバリューの判断において軽視されている。このバランスの偏りは私たちが世界を広く理解することを困難にしている」と指摘している。

日本で暮らす私たちにとって一見すると無関係に思える遠い世界の現象も、他人事ではなく、私たちが問題の原因をつくってしまうこともあれば、影響を受ける側になる場合もある。

広い視野を持って、世界の出来事への理解を深めることが今、求められている。

●Global News View「2023年潜んだ世界の10大ニュース」

https://globalnewsview.org/archives/22669