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日本の資源外交に見る中東の語学教育政策

2011年10月17日 18:10
日本の資源外交に見る中東の語学教育政策

 今月9日、枝野経産相が中東のアラブ首長国連邦(=UAE)を訪問した。日本が多くの原油を輸入していることから、石油資源の安全確保が訪問の目的だ。しかし、要人との会談の合間に、枝野経産相はある“意外な場所”を訪れた。ロンドン支局・岩崎建記者が取材した。

 枝野経産相は、就任後初の海外訪問にサウジアラビアとUAEを選んだ。日本が原油を輸入している国の1位と2位だ。将来の安定供給に向けた、いわゆる“資源外交”だ。そんな中、枝野経産相が1か所だけ意外な場所を訪問した。UAEのアブダビにある日本人学校だ。“資源外交”で、なぜ学校に訪れたのか?そこには、ある秘密があった。

 今年1月、私たちはこの日本人学校を訪ねた。ここは世界各地にある日本人学校と同じように、現地に暮らす日本人の子供たちが学んでいるが、1つだけほかとは大きく違うところがある。そこでは、ほかの日本人学校にはない、少しユニークな取り組みが行われていた。取材当時、小学1年生のクラスでは、日本人の子供たちに交じってアブダビの男の子2人が学んでいた。この学校では、2006年から現地児童の受け入れを始め、今年10月の段階で5人が通学している。教室で「先生、ラシェット君赤ちゃんだった時に1個アリ食べたことある」「え~、ダメじゃない、うそ」と、滑らかな日本語でやりとりするシェケーリ君とラシェット君。2人の会話はもちろん、読み書きもほかの日本人のクラスメイトと同じように勉強している。この日は学習発表会の練習も行われていた。世界各地の日本人学校の中でも、地元の子供を受け入れているのはここだけだ。アブダビでは、将来の国づくりを見据えて、国際的な人材の育成を目指している。その一環として、日本人学校に白羽の矢が立てられたのだ。当初、日本人の保護者の間からは、消極的な声や様々な懸念もあったという。しかし、外務省、文部科学省、そして経済産業省も加わって、最終的には原油の安定供給といういわば国益に、日本人学校が一役買うことになったのだ。アブダビ日本人学校の小野寺校長は、この取り組みについて、こう語ってくれた。

 「今現在、日本の経済がだいぶ落ち込んできている。そういう中で日本の資源、石油という最重要エネルギー確保という視点から、もっともっと日本はこのUAEという国と仲良く、親善関係を密にしていく。そういうきっかけになれば…」

 将来のエネルギーをどう確保していくのか。この大きな課題に対して、はるか中東の地で、ひとつの試みが着実に進められている。

 一方、UAE政府がこうした取り組みをしているのは、日本語教育だけではない。アブダビの地元の子供たちが通う学校で、小さな子供たちが中国語を練習している。ここでは、約4年前から中国語の教育を始めている。時間割表を見ると、イスラム教の聖典・コーランの授業と並んで、毎日中国語の授業が取り入れられていた。アラビア語、英語とともに、中国語を習得させることが目的だということだ。教師は中国から呼び寄せていて、一番上の学年になれば、日常会話はもちろんのこと数学や科学といった複雑な授業も中国語で出来るという。中国語教育をしているアブダビ地元学校の校長は、「ここでは3歳半から18歳まで中国語を勉強します。政府の教育評議会から、アラビア語、英語、中国語の3か国語を習得させるようにと指導されています」と、説明してくれた。

 福島第一原発の事故後、再生可能エネルギーへの移行が取りざたされる一方で、今の主要なエネルギーである原油をどう確保するのか。そして、産油国の側も、資源に頼らない将来を見据えた国づくりをどう進めていくのか。それぞれの戦略が、中東の砂漠の地で繰り広げられている。