【解説】“反乱”ワグネル・プリゴジン氏とは? 消息不明…“粛清の歴史”もこれまでのケースと異なる?
ロシアの民間軍事会社「ワグネル」の反乱は収まりましたが、トップのプリゴジン氏は消息不明となっています。
●“反旗”プリゴジン氏とは?
●反プーチン“粛清”の歴史
以上のポイントを中心に詳しく解説します。
最後にプリゴジン氏の姿を確認できたのが、24日夜の映像です。ワグネルが占拠していたとされるロシア南部ロストフナドヌーを離れる際に撮影されていました。
市民から「頑張って!」「あなたを支持しています!」「健康を祈っています!」と声をかけられ、プリゴジン氏は市民らと握手を交わし、笑みを浮かべていました。拍手や歓声と共に見送られました。
この後、ベラルーシに出国するとされていましたが、到着したとの情報はなく、ロイター通信は25日時点で「所在がわからない」と報じています。
これまで頻繁にSNSで情報発信を行っていたプリゴジン氏ですが、すでに30時間以上投稿がありません。
ロイター通信などによると、プリゴジン氏は、元は軍事畑の人ではなく、飲食関係の仕事をしていました。
1961年生まれの62歳です。強盗などで逮捕されこともあり、服役した後にホットドッグの販売を始めたということです。
その後、レストランやケータリング会社を立ち上げ、そのレストランに足を運んだプーチン大統領と親しくなったということです。こうした経緯から「プーチン氏の料理人」とも呼ばれています。
一方で、ロシア大統領府と契約を結び、軍に食事を提供するようになるなど軍事との関係も徐々に深まっていきました。2014年に民間軍事会社「ワグネル」を創設し、トップに君臨し続けてきました。その後、中東やアフリカなどで戦闘を行ってきたとされています。
ロシアと欧米との関係を研究している筑波大学の東野篤子教授によると、そもそもロシアでは、「民間軍事会社」という存在は今も、公式には認められていないということです。ただ、資金面などでプーチン政権とのつながりがあると指摘されているといいます。
政権から様々ないわゆる“汚れ仕事”、あまり表にはできない仕事を引き受けてきたということです。そのため持ちつ持たれつの関係にあり、ワグネルの違法行為も見逃してもらってきたとみられています。
民間の軍事会社、すなわち金のために戦う集団ですので、これまでも目的達成のためには手段を選ばず、残虐行為も行ってきたと言われています。実際にこのワグネルがロシア政府にかわって、秘密裏にウクライナやシリアなどで深刻な人権侵害を行っているとして、EUが制裁措置を発動したこともあります。
そのプリゴジン氏が消息不明ということで、気になるのが「反プーチン“粛清”の歴史」です。ロシアではこれまで、特にプーチン政権を批判する人たちが次々と謎の死を遂げたり、命の危機に陥ったりしているのです。
2006年10月には、プーチン政権に批判的なことで有名だったジャーナリストのアンナ・ポリトコフスカヤさんが、自宅アパートのエレベーターの中で射殺された状態で見つかりました。
同じ年の11月には、ロシア情報機関の元スパイ、アレクサンドル・リトビネンコ氏が亡命先のイギリスで、何者かに放射性物質「ポロニウム」で毒殺されています。リトビネンコ氏は、ポリトコフスカヤさん射殺事件に関わった人物のリストを入手していたともされています。
2015年2月にはプーチン政権を批判していた野党指導者のネムツォフ氏がモスクワ中心部を歩いていたところ、近づいてきた車の中から撃たれて亡くなったということです。
3年前の2020年8月には、プーチン政権を批判していた野党指導者ナワリヌイ氏が移動中の飛行機内で突然、意識不明となりました。
ナワリヌイ氏の関係者によると、本人が宿泊したホテルにあった飲料水のペットボトルから猛毒の神経剤「ノビチョク」が見つかったということです。一時、集中治療を受けたナワリヌイ氏は命に別条はなく、退院後には「事件の背後にはプーチン大統領がいる」と主張しました。
プリゴジン氏も同じような運命をたどるのでしょうか。
ただ、少なくともプリゴジン氏は「反体制派ではない」ですし、今回はプリゴジン氏の行動についても「私利私欲のための反逆」だと東野教授は指摘しています。
確かにこれまで表向きは、プリゴジン氏は“ワグネルがあげた戦果が正当に評価されていないから”と、軍や国防当局の幹部を名指しで批判してきました。ジャーナリストや野党の指導者とはだいぶ立ち位置が異なるので、過去の事例とは分けて考えるべきだということです。
東野教授はプリゴジン氏がその後に大きな発信をしていない理由について、「それもプーチン大統領との合意事項に入っている可能性もある」とみています。
「なんとなく、ことを収めたように見え、直ちにプーチン政権の権力基盤には影響はないと思う」としつつも、今回の出来事が「近年のプーチン体制にこれほどのダメージを与えた人物はいなかった」とも話していました。
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見えない部分の多いロシアですが、この案件でもまだ断片的な情報が多いです。肝心のウクライナをめぐる戦況にどのような影響を与えるかも、今後の焦点となります。
(2023年6月26日午後4時半ごろ放送 news every. 「知りたいッ!」より)