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アメリカ経済の展望「好景気と偏る富」

2015年1月3日 9:55

 アメリカ経済の2015年最大の注目点は「利上げ」だ。2008年のリーマンショック後、中央銀行にあたるFRB(=連邦準備制度理事会)は、政策金利を事実上ゼロ%に引き下げ、市場に大量のドルを供給する「量的緩和」との2本柱で景気を刺激してきた。

 2014年10月にFRBは「アメリカ経済が着実に回復してきた」として量的緩和を終了し、今度はゼロ金利解除の時期を見極めている。早くても4月とみられるが、急げば景気の腰を折りかねない。去年1年間のアメリカは、さまざまな経済指標が市場の予想を上回る伸びを見せた。

 ニューヨークの市場関係者は「中国やヨーロッパの景気不安などどこ吹く風。アメリカの独り勝ちだ」と話す。GDP(=国内総生産)の最新の伸び率は年率5%という11年ぶりの力強い成長を見せ、個人消費、住宅投資、企業の設備投資ともに伸びている。企業の決算発表では7割の企業が利益・売上高で市場予想を上回り、最新の失業率も6年ぶりの低水準となる5.8%だった。

 ここへ来て原油安も個人消費を後押ししている。これに呼応してニューヨーク市場のダウ平均株価も過去最高値を記録し続け、先月、1万8000ドルの大台に乗った。為替市場でも「安心できる通貨」としての円よりも、今後金利が高くなるドルを買おうとする動きが強まっている。アメリカへの資金流入は今年一層進むとみられる。

 しかし、その富の多くは富裕層だけに向かっているのが実態だ。去年9月、高級マンションの建設ラッシュに沸くニューヨークの街で、ファストフード店の従業員らが最低賃金の引き上げを求めて大規模デモを行った。参加者の一人は「夜7時から朝4時まで働いても、息子と自分の生活のためにはさらに別の仕事をしなければならない」と話した。デモは全米150以上もの都市に広がった。州などが定める最低賃金の引き上げが実現しない中、物価だけが上がっていく。

 政府の統計ではアメリカの貧困層は5000万人近くに上り、「金融緩和による恩恵などない」と話す労働者は多い。過去10年間で増えた所得の95%は、国民のわずか1%の富裕層に流れたとの調査もある。最近注目されているフランスの経済学者トマ・ピケティの著書「21世紀の資本論」では、富の多くは「労働者」でなく「一部の資本家」にもたらされると指摘している。その傾向がアメリカで今年も強まっていく可能性がある。

 「世界一の格差社会」とも言われるアメリカ。オバマ大統領が「ひとつのアメリカ」と唱えたのとは裏腹に、社会に深い溝が生まれている。