タイ邦人女性殺害 “解決を…”遺族の思い
2007年、タイ北部の観光地で当時27歳の日本人女性が殺害された事件は、今も未解決のままだ。今月、現地を訪れ、事件の解決を訴えた遺族の思いを取材した。
3月3日、タイ北部スコタイに花を選ぶ男性の姿があった。大阪からタイへとやってきたのは、川下康明さん。車に乗って川下さんが向かった場所は、スコタイにある遺跡だ。
「少なくとも7回は来たので、それ以上は登っていますね」
川下さんは、遺跡を歩きながらそう語る。長い石畳を登ったその先に、目指す所があった。長女・川下智子さんの遺体が見つかった場所だ。川下さんはその無念をこう語る。
「当日も、子どもたちも観光客も来たりしていたのに、ちょっと誰もいない間に…無念ですよね。一日も早く事件が解決するように、改めてお祈りした」
事件が起きたのは、2007年11月。現地で観光中だった川下智子さんは、何者かに首を刺されるなどして殺害された。現地・スコタイの警察当局は殺人事件として捜査を開始。2013年になって、捜査は地元警察から重大事件などを扱うDSI(=タイ法務省特別捜査局)に移されたが、解決に結びつく情報は無いままだ。特別捜査局の捜査員はこう話してくれた。
「この事件は発生からもう7~8年が経過しているが、限られた範囲での情報しかなく、捜査は難しい」
難航する捜査。川下さんが着ていた衣服に付着していたDNAなど、証拠はわずかだ。特別捜査局は当時、現場にいた可能性がある人物などを対象に改めてDNA鑑定などを行うとしている。遺体が見つかった現場のすぐ近くでは、情報提供を呼びかける看板が設置されていた。
世界遺産にも登録されているスコタイの遺跡群には、各地から多くの観光客が訪れる。しかし、事件発生から7年以上がたち、現地を訪れる観光客の多くが事件について知らないと話す。外国人観光客からはこんな声が聞かれた。
「(殺人事件が)この場所であったのですか?その話については知りません」
「知らなかった。聞いたこともなかった。こうした場所で殺人事件が起きたと聞いてショックだ」
康明さんは、時間がたつことで事件が忘れられることが怖いという。
「一番気になるのは風化すること。いつの間にか忘れ去られて、なかった事にされてしまうのを一番おそれている」
事件を忘れて欲しくない―。そうした思いを胸に今月、康明さんらは捜査を進める特別捜査局を訪れ、組織のトップと面会。捜査の最新情報などについて直接説明を受けた。また、康明さんらは特別捜査局を管轄する法務省を訪問し、法相らとも面会した。タイで法相が個別の事件の遺族に会うのは異例のこと。人気の観光地で外国人観光客が殺害されたこの事件の解決に向け、タイ政府は全力をあげるとしている。パイブーン法相はこう述べる。
「私たちは智子さんの両親のため、事件解決に向け、すべての事をしなくてはならない」
政府の要人らに直接、事件の解決を訴えた康明さん。今後の捜査に期待をのぞかせた。
「大臣のみなさんも首相秘書官も事件の解決に向けて頑張るという決意、力強い言葉をいただいた。それを智子に報告して帰りたいと思っています。非常に期待を持っています。解決に向けて」
事件から7年あまり。日本から遠く離れた地で捜査はどのように進められていくのか。康明さんらは今後も、政府などに事件の解決を訴えていくとしている。