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小麦が山積みのウクライナの農場倉庫…「輸出できないと農業は大惨事に」

2022年7月19日 12:47
小麦が山積みのウクライナの農場倉庫…「輸出できないと農業は大惨事に」
倉庫にうずたかく積まれたままの去年の小麦

ロシアによる軍事侵攻の影響で、ウクライナ産の穀物の輸出が滞り農場の倉庫には出荷できない小麦がうず高く積まれたままになっている。農場のオーナーは「このまま輸出できないとウクライナの農業は大惨事となり壊滅する」と嘆いた。

■世界屈指の穀倉地帯ウクライナは輸出大国

私たちは6月下旬、首都キーウから車で1時間半ほど南にある、農場へと向かった。青空の下には収穫前に大きな実をつけた黄色い小麦畑が一面に広がっていて、この色はウクライナ国旗カラーのもとになったといわれている。別の場所ではひまわりも植えられていて、8月には一面に黄色い花が咲くという。

実はウクライナは世界屈指の穀倉地帯で、ひまわり油の輸出量は世界1位である。さらにトウモロコシは世界4位、小麦も世界5位にランクインする輸出大国だ。

しかし、この農場の倉庫ではある“異変”が起きていた。

■小麦の収穫を前にしても倉庫のスペースがない

倉庫内に足を踏み入れると、去年収穫された小麦がうずたかく積まれたままになっていた。例年だと6月末は倉庫は空になり、次の収穫に備えて消毒作業を行っているそうだ。しかし収穫まで2週間を切ったにもかかわらず新たな穀物を納めるスペースがない。

小麦だけでなく、ひまわりの種やトウモロコシも出荷できないまま倉庫で山積みになっているのは、ウクライナ侵攻で黒海に面する港がロシアに占拠され、船で穀物を輸出できないからだ。

陸路でポーランドを経由して輸出はできているが国境では通関待ちのトラックが列をなしている。また陸路ではどうしてもヨーロッパが中心となり、アフリカや中東には十分な量を輸出できないのだ。

農場のオーナーオレクサンドルさんは、来年にかけて事態はさらに深刻になると警鐘をならす。

「ウクライナから穀物が輸出できないのは世界的な問題になります。 来年は収穫量が半減すると思います」

■「来年は収穫量も半減・・・ウクライナの農業は大惨事に」

その理由としてあげたのは2つ。

1つ目は輸送コスト上昇とウクライナ産小麦の値崩れ。オレクサンドルさんによると、ウクライナ侵攻の影響でガソリン価格が高騰し、輸送コストは3倍にあがったという。

さらに陸路で輸出できているヨーロッパでは小麦はある程度供給されているため、ウクライナ産の穀物の値段が下がり、出荷するほど赤字になるという。高く売れるアフリカや中東に輸出できないため、出荷しても損失がかさむだけで、この状況が続くと農家は穀物を作らなくなると危機感をあらわにした。

そして2つ目の理由は、農場の多くが占拠されたこと。オレクサンドルさんの農場や事務所、倉庫の多くはロシア軍によって支配されたエリアにあり、倉庫の穀物やトラックなど90台が盗まれた。被害損失はなんと2億ドル(日本円でおよそ270億円)にのぼるという。

■GPSをたどると盗まれた車両はロシア支配エリアに

盗まれた農業機械やトラックのGPSをたどってみると、クリミア半島のロシアが支配するエリアあたりまで移動し、記録が途切れていることがわかった。他にもロシアが支配する東部のルハンシク州まで移動した車両もあった。盗まれた車のうち数台は今も行方を追うことができるが、ロシアによって占拠された場所にあり簡単には取り戻すことはできない。

農場のオーナーは「ロシアは盗んだ車で我々の穀物を海外に転売している」と主張する。

「港が解放されて船での輸出が再開されないと、ウクライナの農業は大惨事となり壊滅する」と訴えるオレクサンドルさん。WFP=国連世界食糧計画は、「侵攻が続けば、4700万人が新たに飢餓に直面」するとしている。穀物輸出再開をめぐる協議で、ロシアとウクライナが合意できるのかが注目される。

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