香港「選挙制度」にそれぞれの思い
香港では、先週、中国政府の意向を反映した選挙制度の改定案が議会で否決された。採決をめぐり、賛成派と反対派それぞれの思いを高井望記者が取材した。
中国の「特別行政区」と定められている香港。17日、議会周辺では、この日から審議が始まった政府のトップである行政長官の選挙制度の改定案をめぐり、賛成派・反対派双方が集会を開いた。柵を隔てて、民主派と親中国派が対立する主張を述べている。香港を2分した改定案は、これまで、各界の代表が選ぶ形だった行政長官について、1人1票の直接選挙となる一方で、事実上、民主派が立候補できない形となっていた。中国の国会にあたる全国人民代表大会の決定に基づいていて、親中国派は賛成、民主派は反対という構図で、去年の大規模デモの原因にもなった。
民主派団体の顔として活躍する周庭さん。日本のアニメやゲームが好きな18歳の大学生。周さんが所属する“学民思潮”は、去年の大規模デモの際、主導的な役割を果たした学生団体のひとつだ。改定案の審議を前に日本を旅行して、刺激をうけたという周さんは、民主的な選挙の実現に意欲を燃やす。
周さん「東京では“民主”は当たり前のことだけど、香港人にとっては、一生懸命がんばっても“民主”はない」
今回の改定案は、立候補を制限している点が民主的ではないとして反対だと主張する。
周さん「中国政府が今、香港の政治と選挙の制度をコントロールしたがっているが、私たちが自分の未来を自分で決めたい」
周さんのような学生が中心となり、現状への不満を訴える民主派。しかし、去年の大規模デモ当時と比べると、温度感は下がっていて、抗議活動初日となった14日のデモ行進は、想定の5万人に対し、3500人しか集まらなかった。背景にあるとみられるのが、経済の落ち込みだ。
去年の大規模デモの影響で収入が減ったと話すのは、甘穂延さん・57歳。自らを“親中国派”とする甘さんは、中国本土からの観光客を相手にツアーガイドをしている。ツアーの際、必ず訪れるという広場を案内してもらった。中国本土からの観光客数について聞いてみると、「少ない、非常に少ないよ」と甘さんは話す。甘さんの会社では、去年の大規模デモ以降、中国本土からの観光客が半数に落ち込んだという。消費が旺盛な観光客の落ち込みは、当然、小売業や飲食業にも影響を及ぼしている。甘さんによると「たとえば一部の小さな店は、完全に経営できなくなり、家賃が払えなくなりました」ということだ。
経済的に中国に依存している香港。甘さんは、政治面でも中国政府と対立するのではなく、受け入れていくべきだと主張する。政治改革法案を支持するか聞いてみると、甘さんは「私は支持します。私からみると、中国政府の政策は実は庶民に有利なのです」と話す。
直前の各種世論調査でも、賛成と反対が拮抗(きっこう)した今回の改定案は、結局、民主派の主張どおり否決となった。民主派は一定の成果を見せた形だが、一方で、行政長官はこれまでどおり、各界の代表が選ぶ形式のままで、まったく前進していないのも事実だ。民主派の学生団体“学民思潮”の黄之鋒さんはこう話す。
「否決は想定内なので特別、興奮はしていません。重要なのは、これからどういう道に進むかです」
今後も運動を継続する方針の民主派。一方、経済力を背景に、影響力の拡大を図る中国政府。民主的な選挙の実現をめぐる攻防は、今後も続く見通しだ。