人気の観光地 与党勝利でトルコの安定は?
先月25日、東京・渋谷区のトルコ大使館前で大乱闘があった。トルコの総選挙を前に、トルコ人グループと少数派のクルド系トルコ人のグループが衝突したのだ。その総選挙は1日に行われ、エルドアン大統領率いる与党が勝利した。日本人にも人気の観光地を抱えるトルコ。今回の選挙結果で安定がもたらされるのだろうか。
1日、トルコで行われた総選挙では、与党・公正発展党が選挙前を上回る議席を獲得し、単独過半数を回復した。過半数獲得が伝えられると、与党の支持者らは喜びを爆発させ、イスタンブールの路上はお祭り騒ぎとなった。
与党支持者「強いトルコになって平和を取り戻します」
有権者が求めた“強いトルコ”。背景には、トルコ国内で相次ぐテロがある。先月10日に首都アンカラで発生した自爆テロでは、100人以上が死亡した。
アンカラの事件で高校生の娘を亡くした、デリさん一家を訪ねた。
「大きな喪失を感じました」と泣く母親。姉妹ら家族が口にしたのは、政府への不満だった。
父親「政府がやるべきこと(治安対策)をやっていれば娘は命を落とさなかった」
治安悪化の影響は、観光業にも及んでいる。「観光客がすごく減っている」と話すのは日本語観光ガイドの男性。トルコ観光協会の会長は、「事件で日本人が渡航をためらっている」と語った。日本からの観光客は、前年と比べて34%減ったという。
前回の選挙でまさかの過半数割れとなった政権側は、巻き返し策として、この「治安対策」を最大限に利用する手に出た。
政権側は、テロ事件への関与が疑われた過激派組織「イスラム国」への空爆を開始。有権者に対してテロに屈しない姿勢をアピール。さらに、この機に乗じて、少数民族クルド人に対する締め付けを強化した。クルド系政党の躍進に危機感を抱いたためだ。
クルド人はトルコ、イラク、シリア、イランなどに分かれて暮らしている。「国を持たない世界最大の民族」とも呼ばれ、トルコにも1000万人以上が暮らしているが、歴史的にも少数派として抑圧されてきた。
政権側は「イスラム国」と合わせて、クルド人の武装組織に対しても大規模な攻撃を開始。さらに「テロ組織」と位置づける武装組織とクルド系政党を同一視し、イメージ悪化を図った。今回の選挙活動では、クルド系政党HDPの選挙事務所の代表を務めていた女性がトルコ当局に逮捕されたという。容疑はテロ組織に関わったというものだった。
HDPベシクタシ事務所ナキ・デミルチヴィ代表「当局は“テロ組織に関与している”などと言ってクルド系政党の関係者を拘束しているのです」
選挙前日。イスタンブール中心部では、トルコ当局に家族を拘束された人々が政府へ抗議集会を開いていた。トルコ当局に家族を不当に拘束されたと訴える人々。多くがクルド人だといい、クルド系政党の党首の姿もあった。
クルド系政党HDP・デミルタシュ党首「(今回の選挙は)未来の再建にあたって民主主義か独裁政治かを選択できる歴史的な機会なのです」
結局、クルド系政党は議席数を大きく減らしたが、結果を不服とするクルド人と治安部隊の間ではやくも衝突が起きている。トルコが本当の安定を取り戻すには、まだ時間がかかりそうだ。