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慰安婦問題 韓国国内の世論を抑えられるか

2016年1月4日 0:43

 日本と韓国は2015年末、いわゆる従軍慰安婦問題で解決に向けた合意に至った。しかし、韓国国内では危惧されていた通り、反対の世論が高まりつつある。

 合意を発表した翌日の2015年12月29日には、韓国外務省の高官が合意内容について説明するため、元慰安婦が暮らす施設を訪ねた。

 しかし、元慰安婦たちは声を荒らげ、「私たち被害者を無視して勝手に交渉をしたのか」と猛烈に反発。高齢となった元慰安婦の女性が「事前の説明は一切なかった。説明があれば決してこんな合意は認めなかった」と厳しい口調で話す様子がテレビで大きく報じられ、説得にあたった政府の狙いとは逆に「合意を急いだ政府に置き去りにされた被害者たち」といった姿がクローズアップされた。

 日本大使館前にある慰安婦を象徴する「少女像」の撤去をめぐっても、反発する世論が根強い。問題は日本と韓国の間の合意に対する解釈のズレから生じている。

 日本側は合意によって、「移転される」との認識を示しているが、韓国政府は「撤去すると約束したわけではない」といわば「努力目標」とする立場だ。

 一方、像を設置した市民団体・挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)は「移転はあり得ない」と猛烈に反発している。挺対協は合意の2日後に反対デモを開いたが、警察発表で700人を集め、影響力を見せつけた。

 像の移転問題は「日本の要求をのみ、撤去に応じるのか」、それとも「不当な要求を拒絶し、悲劇の歴史のシンボルを守り抜くのか」というわかりやすい二者択一の構図が描けるため、今後の世論の行方を大きく左右するものになるだろう。

 韓国の民間調査会社・リアルメーターが2015年12月30日に発表した世論調査では、少女像の移転について「反対」の66.3%が「賛成」の19.3%を大きく上回っているのが現状だ。

 慰安婦問題は、韓国外務省関係者が合意後、「日韓の外交交渉の歴史の中でも最も難しい事案だった」と振り返るほど困難なものだった。首脳会談で生まれた妥結に向けた流れをうまく生かし、最終的には朴槿恵大統領が政治決断を下して電撃的な合意に至った。

 韓国側は、日本政府が「法的責任」という重要な部分で譲歩する可能性がないことが分かっていただけに、交渉の過程で元慰安婦や市民団体との事前調整などを行えば合意に至ることはできなかっただろう。しかし、結果として根強い反対世論への対応という重い課題を背負い込んでしまった。

 韓国は2016年4月に国会議員選挙を控えていて、野党が政府を攻撃する姿勢を強めている。野党は日本政府との今回の合意を「日本の法的責任」や「元慰安婦の被害の回復」「国民的同意」をいずれも得られなかった「三無合意」だと酷評した。

 2015年12月に分裂した野党は、選挙での苦戦が予想されていて、今後、この合意を政権攻撃の材料として批判をますます強めるだろう。

 こうした中、朴大統領は大みそかに国民へのメッセージを発表し、「慰安婦問題は傷があまりに深く、現実的には誰もが満足しうる結論を得ることは難しかった」とした上で、「可能な範囲で十分な進展を達成したという判断で合意をした」と理解を求めた。

 もちろん、合意への批判だけでなく評価する声もある。ソウルの市民からは「互いに交渉のテーブルに座って解決しようとしたことに意味がある」「両国が互いに譲歩して良い結果を出したと思う」という意見が聞かれた。

 しかし、市民団体を中心とした反対世論を抑えるために何らかの手が求められているのは明らかだ。朴大統領が元慰安婦の女性と直接会うべきだとの声もあるが、大統領府は「まだ決まっていることはない」としていて、世論を抑える次の手はまだ模索中だ。

 2016年、韓国政府は反対世論を抑えながら日本との合意内容を履行するという難しいかじ取りを迫られる。