核実験を強行する北朝鮮 米国の“誤算”
キーワードでニュースを読み解く「every.キーワード」。13日のテーマは「アメリカの誤算」。日本テレビ・小栗泉解説委員が解説する。
先週、北朝鮮は5回目の核実験を強行した。今回の実験について北朝鮮は「実戦で使われる核弾頭の爆発実験だ」と主張している。ミサイルに核弾頭を載せて実践的に配備することが可能になれば、北朝鮮の脅威は新たな段階に入ったと言える。
――国際社会が強く反対する中、どうして北朝鮮は核実験を繰り返すのか。
北朝鮮はアメリカとの直接対話を求めていて、そのためには核で武装する必要があると考えているからだ。
というのも、実はアメリカと北朝鮮の間では戦争がまだ終わっていなくて、両国は休戦状態にある。北朝鮮としては、この戦争を終わらせて金正恩体制をアメリカに認めさせたいというのが最終目的だ。そのため、核保有国として認めさせ、アメリカと対等の立場になって話をしたいと考えている。
――対話を求められたアメリカはどう対応しているのか。
オバマ政権は北朝鮮の核保有は認めない立場だ。北朝鮮が非核化しない限り、アメリカ側から交渉しないとする「戦略的忍耐」という政策をとっている。
その理由は、2012年、北朝鮮が核実験やミサイル発射を停止する見返りに食料を提供する合意をしたにもかかわらず、その2か月後、北朝鮮が事実上の弾道ミサイルを発射。アメリカとしては合意を破棄された苦い経験があるからだ。
――「戦略的忍耐」という戦略で、状況は良くなったのか。
そうとも言えない。オバマ政権発足後、北朝鮮は4回の核実験を行い、核開発が進んでしまったとの見方もある。アメリカ国内からは、オバマ政権に対して批判の声も上がっている。
共和党の大統領候補レースに出馬していたルビオ上院議員は「核実験は『戦略的忍耐』政策の失敗を示している。オバマ大統領が黙認している間に、北朝鮮は核開発とミサイル能力を拡大した」と批判している。ワシントンポストも「オバマ大統領は、北朝鮮の核開発を真剣に捉えることを怠った」と論じている。
アメリカが北朝鮮の挑発を無視している間に北朝鮮がここまで核開発を進めてしまったことは、アメリカにとって誤算だったと言えそうだ。
――北朝鮮は今後、ますます核開発を進めていくのか。
北朝鮮の外務省報道官は11日、「オバマ政権の『戦略的忍耐』政策は完全に破綻した。核戦力の質的・量的強化を続ける」と述べ、核開発を推し進めていく姿勢に変わりがないことを強調した。
韓国国防省も「北朝鮮はいつでも追加の核実験を行える状態だ」と述べ、さらなる核実験に踏み切る可能性があるとして警戒態勢を強化している。
――北朝鮮は核開発を急いでいるように見えるが。
今回の核実験のタイミングは、アメリカ大統領選挙を意識したものという見方もある。というのも、アメリカではいま、オバマ政権は残すところあとわずかで、レームダック(死に体)といった状態だ。
来年1月に新たな政権が誕生する前に北朝鮮は自らの核能力をさらに強化し、アメリカに対する交渉力を引き上げたい思惑があるとみられる。
朝鮮半島情勢に詳しい早稲田大学大学院の李鍾元教授は「北朝鮮は今後アメリカ本土を射程におさめる大陸間弾道ミサイル『KN-08』の発射実験を行う可能性がある」と述べている。
つまり、核開発を進めるとともに、アメリカ本土にまで届くミサイルの保有を誇示する狙いだ。
――日本は大丈夫なのか。
すでに日本は北朝鮮の弾道ミサイル「ノドン」の射程内にある。日本は弾道ミサイルを撃ち落とすため、イージス艦に搭載された迎撃ミサイルと地上型の迎撃ミサイル「PAC3」の二段構えで撃ち落とす体制だ。
朝鮮半島有事の際は、アメリカのグアムや日本の米軍基地からアメリカ軍が出撃し、北朝鮮を攻撃する体制となっている。
――これで万全なのか。
一斉に大量のミサイルを発射された場合、迎撃は困難とされている。さらに北朝鮮は先月、潜水艦から弾道ミサイルを発射。去年5月には150メートルだった飛距離が500キロにのびたとみられている。
これを受け、防衛省幹部は「潜水艦を自由に動かしてミサイルを発射できるとなれば、現実的な核の脅威になる」と述べるなど、「事態は相当深刻な状況になっている」と危機感を示している。
「現実から目をそらさない」―いま、国連の安全保障理事会では北朝鮮に対する新たな制裁を決議するための協議が始まっている。日本国内でも独自の制裁の検討が行われているが、北朝鮮の危機にどう対応するのか、現実から目をそらさず議論していくことが求められている。