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“離脱決断”3か月 移民らに広がる不安

2016年9月23日 13:54
“離脱決断”3か月 移民らに広がる不安

 EU(=ヨーロッパ連合)からの離脱という決断で世界に衝撃を与えたイギリスの国民投票から23日で3か月を迎えた。ロンドンでは平静を取り戻しつつあるが、一部の住民には不安が広がったままだ。イギリスのいまを取材した。

 ロンドン中心部にある、株や為替などを取り扱う金融機関。EUからの離脱決定直後は混乱していたマーケットも、いまは離脱決定の前の状態に戻りつつあるという。


■母国に残るか、戻るか

 その一方で、離脱決定を受けて人生の分かれ道に立たされているという家族がいる。イギリスに移住して約10年になるポーランド人のアニアさん(33)。現在は夫でイギリス人のジェームスさん(30)、まもなく2歳になる娘・ジェーンちゃんと3人暮らしだ。

 夫婦で最近相談していることがあった。

 アニアさん「私の家族や友達がポーランドにいるから、ポーランドに戻るという判断もありだと思う」

 ジェームスさん「それは僕たちにとって大きな変化になるよね。でも、仕事もきっとあるだろうし、行っても良さそうだね」

 EUの市民としてこれまでイギリス国民とほぼ同等の権利を保護されていたアニアさん。しかし、イギリスのEU離脱決定により、「移民はもうイギリスで受け入れられないのではないか」と不安に感じ、母国のポーランドへの帰国を検討し始めたという。


■急増する「ヘイトクライム」

 東ヨーロッパを中心にEU域内からイギリスに来た移民は、去年1年間だけで過去最多の16万人以上。「こういった移民がイギリス人から職を奪っている」などと不満が広がり、その結果、国民投票が実施された。

 実際、離脱決定後には、移民らへの憎悪による犯罪「ヘイトクライム」が急増した。ロンドンにある「ポーランド社会文化協会」では、離脱決定の2日後、「ポーランド人はイギリスから出て行け」と玄関のガラス全面に悪質な落書きが見つかった。

 さらに先月末、ロンドン郊外ではポーランド人男性が母国語をしゃべっていたところ、少年らに集団で襲われて殺害される事件が発生した。地元警察はヘイトクライムとみて捜査している。

 国民投票以降、ヘイトクライムは40%以上増加。この事態にイギリスに住む移民全体に不安が広がっている。

 ポーランド移民の女性「移民の子どもたちが学校で突然、自分の国へ戻れと言われ、泣いて帰ってきたと聞いた」

 ポーランド移民の男性「定住まもない移民は、イギリスから出なければならない可能性があるとうわさで聞いた。みんな不安だと思う。だからこんなうわさが出ると思う」


■対策としての「イギリス国籍取得」

 ポーランド人のアニアさんは、離脱が決まってから、通勤の際、あることを始めた。

 アニアさん「イギリス国籍を取得するためのテスト勉強をしている。離脱結果がきっかけで取得しようと思った。通勤するときしか勉強する時間がない。家では子どもの面倒をみなければならないから」

 アニアさんは1つの対策としてイギリス国籍も取得することで、夫と娘とイギリスで暮らし続けられるという保証をまずは得たいと考えているのだ。


■正式な離脱表明はいつ?

 今後、EU各国と離脱に向けて交渉を行うメイ首相。EU域内からの「移民の流入を制限」しつつ「EUの単一市場に残って、経済的なメリットを受け続ける」という有利な条件を勝ち取りたい考えだが、各国の首脳らは「いいとこ取りは許さない」とけん制している。

 EUのトゥスク大統領は、メイ首相が来年1月にもEUに対して離脱を通告する準備が整うとの見通しを示したことを明らかにした。しかし、いまだ離脱が正式にいつになるのかは不透明で、移民の間では将来への不安が広がったままだ。