“初来日”ドゥテルテ大統領ってどんな人?
フィリピンのドゥテルテ大統領が就任後、初めて来日し、滞在中に安倍首相との首脳会談や天皇陛下との懇談などが予定されている。
ドゥテルテ大統領はその過激な言動からアメリカ大統領選挙のトランプ候補になぞらえて、「フィリピンのトランプ」と呼ばれている。一体どんな政治家なのだろうか。
■訪中時の“悪行”
ドゥテルテ大統領が先週、中国を訪問した際の映像を見ると、共同文書に調印するという極めてフォーマルな席にもかかわらず、ガムをかんでいるようにも見える。
さらに、中国の習近平国家主席と式典に臨む際には、ポケットに手を突っ込んで歩いていた。こうしたドゥテルテ大統領の態度に、中国国内からも「礼を失している」などの批判の声もあがった。
■“ASEAN”でも…
振り返ってみると、大統領としての国際会議デビューとなった先月の東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議の前にも、アメリカのオバマ大統領に対し、こんな発言をしていた。
「疑問や声明を投げつけるな。売春婦の息子め、会議でののしってやる」
この時は首脳会談がキャンセルになって、「後悔している」とのコメントを発表したが、今月に入ってもこんな発言をしている。
「アメリカは我々を批判した。オバマ大統領は地獄へ落ちろ」
さらには、先週の習主席との首脳会談の後にも、こんな発言をした。
「アメリカとは決別する。社会的にはさておき、軍事的・経済的に」
■米国→中国に軸足移した?
ずいぶんアメリカに対して厳しい物言いをしているが、ドゥテルテ大統領は、これまでのアメリカとの同盟関係から、中国に軸足を移したのではないかと懸念されている。
というのも、これまで中国の南シナ海での強引な海洋進出に対して、アメリカは同盟国である日本やフィリピンと一緒に、中国に対して「国際ルールを守りなさい」と「待った」をかけてきた。
ところが、先週の習主席との首脳会談でドゥテルテ大統領は、南シナ海の問題に踏み込まず、一方で民間の投資も含めて2兆5000億円もの経済支援を中国から取り付けた。つまり、南シナ海の問題は棚上げにして経済の実利を優先し、中国と接近したわけだ。
しかし、これはフィリピンと中国の2国間の問題ではなく、日本、アメリカ、フィリピンの3か国の足並みを一方的に崩す行為で、中国を利することにもなりかねない。
このため、アメリカ政府も反発。安倍首相も今回のドゥテルテ大統領との首脳会談で、その真意を確認したい考え。
ドゥテルテ大統領本人は、来日直前に行われたNNNのインタビューに対してこう話している。
「(日本とは)南シナ海問題についての議論に多くの時間を割くだろう。解決のためには、対話以外に方法はないからだ」
■フィリピン国内では高支持率
そんなドゥテルテ大統領に対し、フィリピンの国民はどう思っているのか。最新9月の世論調査で支持率は86%とかなり高い。
ドゥテルテ大統領は就任前、フィリピン南部の町・ダバオで22年間市長を務めていたが、その時に「犯罪撲滅作戦」を展開し、ダバオの町を国内有数の「治安の良い町」に変えることに成功した。
そして、大統領選挙でも、薬物問題が深刻な社会問題となっている中、「麻薬を半年でなくす」と公約し、就任後は大規模な麻薬犯罪の摘発を行っている。6月末に大統領に就任してから約4か月の間に出頭してきた麻薬中毒者などの数は70万人以上に及ぶ。
■強いリーダー…やり方に「賛否両論」
国内では「強いリーダー」として結果を出しているという面もあるが、そのやり方が問題となっている。
ドゥテルテ大統領が繰り出す「麻薬撲滅作戦」では、摘発などの際に抵抗もしていないのに、警察官が銃で容疑者を撃つようなケースも後を絶たず、4000人近くが殺害されたという。
フィリピン国内の拘置施設は、薬物関連で出頭してきた容疑者たちであふれかえっている。「殺されるくらいなら」と自首する人が相次いでいるためだ。
こうした強引とも言える摘発の仕方に、国連人権高等弁務官事務所が「法で認められていない処刑だ」と批判するなど、国際社会からは反発が高まっている。
強いリーダーシップを持つ政治家ではあるが、やり方に賛否両論ある人物とも言える。
ドゥテルテ大統領は、日本に親近感を持っているという。首脳同士の個人的な信頼関係を築く中で、国際ルールに基づく対応をとるよう日本が「正しくクギをさせるか」。そして、ドゥテルテ大統領が過激な発言の真意をどう語るのか、注目しよう。