【コラム】お騒がせメーガン妃と「ママ友」の意外な共通点?【ロンドン子連れ支局長つれづれ日記】
子連れでロンドンに赴任することとなった記者のイギリス生活と、イギリスでのニュースを伝えるコラム。今回はイギリス王室と「ママ友」を通じたイギリスの文化についてです。
■メーガン妃欠席でも・・・
「ねえ、ヘンリー王子って戴冠式に来るの?」
「来ないでしょ!あんな暴露本出しておいて来るはずない」
「でも子どもたちは連れてきたいんじゃないの?」
戴冠式が近づくにつれ、ママ友のグループチャットも若干ロイヤル色を帯びてきた。自身の著作やインタビューで王室批判を繰り返すヘンリー王子夫妻の人気は英国内ですこぶる低い。世論調査会社「イプソスモリ」の最新人気投票では、ウィリアム皇太子が1位、チャールズ国王が4位、カミラ王妃が6位、そしてようやく7位にヘンリー王子、8位にメーガン妃という低迷ぶり。女性スキャンダルを起こしたアンドリュー王子と共にワースト3が定着しているのである。
妻メーガン妃が、義父の一世一代のイベントを欠席することが判明してからは、ママ友たちの熱も冷めてしまい、クリケットの試合日程など、普段通り、子どもたちの話題に戻っている。地元メディアが伝えたところによると、メーガン妃の欠席の理由は「長男アーチーの誕生日だから」。もちろんこれは表向きの理由にすぎないのかもしれないが、「英国王室にとっての歴史的イベントより、息子の誕生日を優先するのか」と苦言を呈したくもなる。
しかし、当の王室はメーガン妃の欠席を「歓迎」しているのだという。
筆者が取材した元王室報道官のディッキー・アービター氏は、「ヘンリー王子夫妻には、個人的には来ないでもらいたい。主役以外に注目が集まることは避けるべきだ」と話していた。
ヘンリー王子夫妻の「王室批判」で、王室への風当たりが強くなるのではないか、という懸念に対しては、英・テレグラフで王室記者をつとめるカミラ・トミニー氏が「2人が発言すればするほどイギリス国民は彼らを嫌いになり、他の王室メンバーをより好きになる傾向がある。結果、王室の支持率は実はそれほど低くなっていない」と話していた。要するに、2人が何をしようが王室は揺るがない、ということのようだ。
■最も大切な一日
「誕生日」といえば、最近息子が友人の誕生日に立て続けに呼ばれた。一つは公園の一角にある小屋を借り切ってのパーティー。おみやげに持たせてくれたのがクッキージャー。
クッキーの材料が何層にも組み合わさった瓶である。あまりにかわいいのでしばらくインテリアとして飾っていたのだが、チョコレートチップが溶け始めたので、あわてて焼いたクッキーは香ばしくて最高に美味しかった。当日、目の下にくっきりクマを刻んだサムのママいわく、「招待した子ども30人分のクッキージャーを作るのに、きのうは3時間睡眠だった」とのこと・・・
その翌日は、なんとペイントボール場でのバースデー。インクが入ったボールを銃で撃ち合うゲームで、1時から5時、という長丁場。当日は氷雨が降る寒い1日で、ママ友はなんと4時間もの間、30匹のおサルさんたちの管理に奔走していた・・・ことほどさように、メーガン妃ならずとも、誕生日はまさに、何にも勝る「最も大切な日」なのである。
「ママ友」といえば、さかのぼること4ヶ月前。
息子が学校に入る前に友人から勧められたのがメッセージアプリのグループに入ること、だった。ここに入っていないと、宿題のことやスポーツの試合のこと、子どものお迎え時間など、情報過疎に陥る危険性がある、というのだ。まずはそういうグループを取り仕切っている「ボスママ」がいるから発見すべし、というのが友人からのアドバイスだった。
入寮当日、とりあえず寮の狭いスペースになんとかすべての荷物を押し込み、トレーナー(スニーカーのことをイギリスではこう呼ぶ)二足と長靴とスリッパをベッド下に並べ、壁に世界地図やら写真やらを貼り終わったところで、声をかけられた。見ると、息子くらいの男の子をつれたブルネットの女性がほほえんでいる。男の子は金髪の巻き毛にまん丸な青い瞳。ミケランジェロが描く天使さながら・・・
思わず見とれていると―
「あなた、もしかして新しく入ってきた人?」
我に返って、「あ、コレ息子です」と指さすと、「私はジェーン、この子はトーマス。隣のお部屋なの、よろしくね。良かったら電話番号交換しない?」とニッコリ。言われるがまま交換すると、帰り道さっそくメッセージが送られてきた。
曰く、「私たちメッセージアプリでグループ作っているの。仲間に入らない?」
まさに!のありがたいお誘いである。「もちろんお願いします」と即答すると、すぐにアプリへの招待状が届いた。
「みなさん、新入生を紹介するわね。仲良くしてあげて」なんとも動きが早い・・・即行で挨拶文を打ち込み、息子と二人で撮った写真を添えて送ると、くるわ、くるわ、次から次にメールがやってくる。
「ハーイ、歓迎するわ」
「今月の体育はクリケットだから道具を間違えないで」
「あさっては算数のミニテストよ」
世界中どこへ行っても、ママネットワーク強し。情報がどんどん送られてくる。
そして次の日、ジェーンからさらなるお誘いが・・・
「ハーイ!今週の土曜日、学校で子どもをピックアップしたあと、うちに来ない?学校から2分なの。スコーンとお茶でもどう?」
まさかのお誘い・・・・・・
「土曜日は仕事で忙しいです」
「学校から2分でも、ロンドンからは遠いです」等々、頭をかけめぐる言い訳の数々・・・
いや、そんなことじゃいかん、ママ友と親交を深めるべし!と諫めるもう一人の自分。
そうこうするうち、ジェーンから自宅への地図が送られてきてしまった。
万事休す。行くしかない。
そして迎えた当日。五時だというのに、すでにあたりは真っ暗。(イギリスは冬、早い時で四時すぎに日没を迎える)タクシーの運転手さんが「この辺かねえ」と迷い込んだ先は、うっそうとした林道。
ジェーンに電話すると―
「とりあえずまっすぐに来てみて。そのうちに赤いレンガの塀が見えてくると思うわ」
スマホでGoogleマップを立ち上げると、周辺は何もない一本道。こんな大自然ど真ん中なら、牧場でも経営しているのかも。このへん羊も多いし・・・などと思っているうちに、「ここですね」と運転手さんの声。
大草原の小さな家、みたいなのを想像していた私は、門がひとりでに開いたことにびっくり。運転手さんも「自動だね~」と感心している。
「あれ、でも家が見えない」・・・と言った瞬間、運転手さんと2人、息をのんだ。
「もしかして、アレ・・・?」
「え、ホテルとか、観光用のお城とかじゃないですよね?」
おそるおそる車を邸宅のエントランスに近づけると、「ハ~イ、無事について良かったわ」とジェーンが笑顔で走り出てきた。黒の飾り気のないセーターにカプリパンツというカジュアルないでたち。そしてあの巻き毛のトーマスくん。横から「父のマイケルです」とマイケル・ダグラスばりにダンディな声・・・
「あの、ここがご自宅、でしょうか?」と目を白黒させる私に、「どうぞ中へ」と笑いながら案内してくれる。こんな一ヶ月は洗っていないスニーカーで足を踏み入れてもいいものか・・・尻込みするも、どんどん中に招き入れてくれる。中はまるで、貴族ドラマ「ダウントン・アビー」の世界・・・
いくつもの部屋を通り抜け、キッチンへ。
おずおずと紙袋を差し出すと・・・
「まあ、レモンケーキ。私も主人も大好きなのよ」
「僕たち中東と香港とロンドンに住んでいて、ようやくこの片田舎に腰を落ち着けたばかりなんだけど、こういう美味しいものはなかなかなくてね」
と優雅に笑うマイケル・ダグラス。
「明日から一週間、僕の会社の東京支社にいくんだ。パートナーがあっちにいてね」と笑う白い歯のまぶしいこと。
「せっかくだから、いただきましょう」と切り分けてくれたレモンケーキとお茶をお盆にのせ、「きょうは寒いからあたたまりたいわね。
こっちはロンドンと違って風が強いでしょう?」とまたいくつもの部屋を抜け、応接間とおぼしき部屋へ。
そこにはホンモノの暖炉があかあかと燃えていた。
「暖炉だ!」
と声をあげる私に、困ったような顔で目を見合わせる夫婦・・・
「とりあえず座って」
と勧められたソファの端にちょこんと腰掛ける。
「どう?息子さんは学校に慣れた?うちの上の娘ジェシカも、入りたての頃は泣いてばかりいたのよ。でも電話をきると、すぐに笑顔になってお友達とはしゃいでいるの。こどもってそういうものよ、大丈夫」
我が愚息を思いやるコメントの数々・・・なのに、私ときたら、「この広い家、どうやってお掃除するんですか?」「めっちゃ広いお庭、草刈り大変ですよね」などとあさっての質問ばかり・・・
「幸いなことに、お掃除やお料理をしてくださる方や専属の庭師が来てくださるの。普段はもう子どもたちでごちゃごちゃしてて全然手が回らないのよ」・・・ですよね・・・
「夏休みとかはどうするんですか?学校が三ヶ月近く休みになるから心配で」と聞くと、「ああ、私たち夏休みはいつもフランスの別宅で過ごすの」・・・ですよね・・・
まったくかみ合わないながらも、何か困ったことはないか、わからないことはないか、とひたすらこちらを気遣い、心配してくれるジェーン。
緊張しすぎてまったく手をつけられなかったフランスのレモンケーキを前に、「ノブレス・オブリージュ(noblesse oblige)」という言葉を思い出した夜だった。
そしてまもなくジェーンの息子、トーマス君の誕生日。プレゼントに何をあげるべきか・・・真剣に悩む今日この頃である。
鈴木あづさ:
NNNロンドン支局長。警視庁や皇室などを取材し、社会デスクを経て中国特派員、国際部デスク。ドキュメンタリー番組のディレクター・プロデューサー、系列の新聞社で編集委員をつとめ、経済部デスク「深層ニュース」の金曜キャスターを経て現職。「水野梓」のペンネームで日曜作家としても活動中。最新作は「彼女たちのいる風景」。