「全人代」開幕 中国の今後は…3つのギモンを解説
中国の国会にあたる年に一度の全人代=全国人民代表大会が5日に開幕しました。中国は世界の多くの国にとって最大の貿易相手国であり、中国経済の動向が注目されています。中国の3つのギモンについて、北京にいる柳沢高志・中国総局長に聞きます。
3つのギモン
1:“米大統領選”中国本音は?
2:“中国離れ”のワケ
3:習近平氏の“ジレンマ”とは
──まず、アメリカ大統領選を中国は、どのように見ているのでしょうか。
中国政府にとっても今年最大の関心事の一つであることは間違いありません。5日に開幕した全人代で、李強首相による政府活動報告には、アメリカを念頭に、「覇権・覇道・いじめ行為に反対し、世界の公平と正義を守らなければならない」と明記されました。
──この“いじめ行為”という言葉、ちょっと気になりますよね。
はい、先月、発表されたあるデータに、中国国内、衝撃が走りました。それがこちら。
「前年比マイナス82%」
──何の数字でしょうか。
こちらの数字、実は、去年、外国企業から中国に投資した額が、前の年から82%も減ってしまい、30年ぶりの低い水準となったのです。
アメリカは、去年、先端半導体やAIなどの分野で、中国への投資を禁止する大統領令を出すなど、中国との経済的な対立を深めています。
中国にとっては、アメリカのいじめによって、経済がダメージを受けているという認識なのです。
さらに、トランプ氏が、大統領になれば中国からの輸入品に60%の関税をかけるなどと報じられていて、中国側は警戒を強めています。
ただ、ある中国共産党関係者は「トランプ大統領になれば交渉次第で、規制を緩める取引ができるのではないか」などと期待感も示していました。
また、日中外交筋は、「トランプ氏が大統領になれば、アメリカ政治は混乱する。習近平政権は中国国民に対し、『やはり民主主義はダメだ』と自らの体制の正当性をアピールする材料ができる」として、中国はトランプ大統領の誕生を望んでいるだろうとの見方も示しました。
──つまり、“中国離れ”を左右するのがアメリカということでしょうか?
外国企業の"中国離れ”の理由はそれだけではありません。
もう一つの大きな理由は、去年、改正された「反スパイ法」です。国家安全にかかわる文書やデータを集めたり提供したら、スパイと見なされるというものなのですが、定義や対象があいまいなのです。
実際に、日本企業でも、社員が拘束される事件が相次いでいて、いまや、外国企業にとって中国でのビジネスが大きなリスクになっているのが現実です。
──だったら経済を良くするために、反スパイ法での締め付けをやめればいいのではないですか?
それができないのが、この3つめのポイント、習近平国家主席の“ジレンマ”なんです。
習主席は、国家安全、つまり自らを頂点とする体制の維持を、経済よりも優先しているとみられます。
先週には、国家機密の管理を厳しくする「国家秘密保護法」を改正し、国民への監視の網を強化したばかりです。
一方で、5日の全人代でも、「『中国への投資』をブランド化する」と中国のイメージアップに躍起になっています。
外国企業を監視し、締め付けながら、外資の誘致を訴えるという矛盾した状況が、今の中国の実態です。
国家安全と経済を両立させることができるのか習政権のかじ取りが注目されます。